3Dプリント技術を用いた様々な犯罪事例|先端技術を“正しく”使うために
あの「犯罪行為」に3Dプリント技術が用いられている
いまや3Dプリント技術は様々な業界においてなくてはならない技術となっている。製造業は言わずもがな、食品、医療、衣服、ホビー、果ては宇宙工学に至るまで、3Dプリント技術の活躍の範囲は果てしなく広い。
ただ、一方で汎用性の高い役立つ技術というものは必ずしも「良い目的」のためばかりに用いられるわけではない。実際、「犯罪行為」のために3Dプリント技術を用いる人たちもいる。
もちろん、そうした行為は許されるべきではない。技術の悪用については正しく取り締まられていく必要がある。その上でも、現在、3Dプリント技術が一体どのような形で悪用されているのかを知っておくことは重要なことだろう。
そこで今回は世界で現在問題となっている、また今後問題になっていくかもしれない3Dプリント技術の違法な使用例についてを紹介したい。
違法薬物を隠すための容器を3Dプリントで製造
まず一つ目は違法薬物の輸送だ。
製造された違法薬物は、その後、様々な場所へと輸送されていく。当局による厳しい取り締まりの目をかい潜るために、犯罪組織はこれまでも様々な技術を用いてきた。3Dプリント技術もまた、違法薬物を隠すために幾度も使用されてきている。
たとえばある例においては、薬物輸送者は任天堂のカートリッジに偽装したオブジェクトを3Dプリントし、その内部に違法薬物を隠していた。また、現在、違法薬物取引の主要な舞台の一つとなっているダークウェブのサプライヤーたちも、様々な容器を3Dプリントして、その内部に違法薬物を隠し、郵便などで購入者の元に配送していると言われている。
3Dプリンターはどのような形状のオブジェクトでも迅速に製造できる。それゆえ視覚的検査などを通過しやすい容器の製造に利用されてしまっているというわけだ。
あるいは、ドローンや半潜水艇などが違法薬物の運搬に使用されるケースもあるが、それらの移動機の改造や製造においても3Dプリンターが用いられている場合もある。さらに違法薬物を製造するためのツール製造に3Dプリンターが用いられていたという事例もある。
カードスキミング詐欺にも3Dプリンターが
3Dプリント技術が詐欺行為に用いられるケースもある。
特に問題となっているのはカードスキミングだ。
カードスキミングとは、キャッシュカードなどの情報を不正に抜き取る行為であり、それによって他人の銀行口座から金銭を略奪することをいう。このスキミングに使用されるのがスキマーと呼ばれるデバイスであり、過去10年以上にわたり、詐欺師たちは3Dプリンターをスキマーの製造に用いてきたと言われている。
海外ではATMキャッシュマシンのカードリーダー部分にスキマーが設置されていたという事例も多い。スキマーを隠すために詐欺師たちは3Dプリントされた部品がカードリーダーに取り付けられている場合もあるという。海外旅行に行かれる際はくれぐれも気をつけていただきたい。
また鍵の複製に3Dプリンターが用いられるケースも相次いでいる。3Dプリンターのユーザーならば分かるように、現在の技術においては鍵の写真さえあればそのCADデータを製造することができてしまうのだ。
今後こんなことに悪用される可能性がある
現時点ではまだ問題にはなっていないが、今後そうした悪用がされかねないケースも見ていこう。
一つは指紋のコピーだ。現在の技術であれば他人の指紋の入ったプラスチック板を3Dプリントすることも可能である。つまり、セキュリティが指紋認証だからと言って安心することはできない。指紋は様々なところに付着しており、それらを採取することも難しくはない。防犯を考えると、セキュリティは二重三重にかけておく必要がありそうだ。
また、これは以前にも紹介したが、すでに3Dプリントで出力した他人の顔貌を模したマスクを使ってAIの顔面認証を騙せることが判明している。こうした技術は他人のスマートフォンやPCなどのロックを解除する際に用いられる危険がある。あるいは他人になりすまして、目撃情報などを操作するというような目的に3Dプリントマスクが使われるケースも考えられる。
なお、現在の技術であれば、瞳の虹彩もコピーすることが可能らしい。そうなってくるとフィジカルな認証システムはほぼ突破可能ということになる。結局、一周回って自分の脳内にだけ保存されているパスワードや合言葉などによる認証の方が安全性が高いということだろうか。ただ、こちらに関しては自分自身も忘れてしまうというリスクが常についてまわる。難しいところだ。
悪用の事例を知識として持っておくこと
いかがだっただろうか。
もちろん、ここで紹介したような3Dプリント技術の悪用は許されるものではない。だが今後、3Dプリントの犯罪的使用が拡大していくことはおそらく間違いない。技術が普及するというのはそういうことだ。
そうした状況に対してあらかじめできることとしては、まず技術の倫理的使用をしつこく啓蒙していくこと、そして悪用事例を知識として持っておくことで被害者となることを回避することだろう。
いかなる技術にもそれ自体に善悪はない。いずれも使う人、使われる目的次第で、その価値は反転する。
是非とも皆さんには3Dプリント技術を正しく、そして楽しく、用いてもらいたい。