廃棄すれば土に還る3Dプリントサンダルが登場|素材は世界初の完全成形可能な生分解性エラストマー「BioCir」
3Dプリント技術を使用してフットウェアの最終部品の生産を自動化する
フットウェア製造における3Dプリント技術の活用に関してはこれまでも幾度か取り上げてきた。
この動きで注目すべき点は製造過程の合理化に限らない。たとえば、、世界的な有名メーカーや有名ブランドは、3Dプリント技術を駆使してこれまでになかったデザイン性、機能性を持つフットウェアをすでに数多く発表している。3Dプリント技術は確かに私たちの足元を変えようとしているのだ。
ただし現状においては多くの場合、3Dプリント技術の使用は部分的なものにとどまっている。つまり、3Dデータを3Dプリンターに送信するだけで出力されるフットウェアというのは、まだまだ現実的ではない。
しかし業界の最終的な目標としては、3Dプリント技術を使用してフットウェアの最終部品の生産を自動化することにある。その試みの一つとして、最近、材料科学会社Balenaが、100%生分解性エラストマーで作られた3Dプリント製サンダルを発表した。
初の完全成形可能な生分解性エラストマー「BioCir」
ミラノとテルアビブにオフィスを構えるBalenaが取り組んでいるのは、「消費財製品の循環モデルの作成」だ。その上で独自に開発したのがBioCirと呼ばれる素材。今回のサンダルも、このBioCirを材料としている。
Balenaのウェブサイトに「Balenaの最優先事項は、さまざまな業界で現在使用されている有害で汚染された堆肥化不可能な合成材料に代わる最先端の循環材料を革新および開発することによって、材料産業を破壊することです」と書かれているように、BioCirはBalenaが無駄が極めて多い従来のファッション業界で使用されてきたプラスチックにかわる、より柔軟性と耐久性のある代替品として開発したものだ。
BioCirは「高分子量ポリマーと改質剤によって結合された天然成分の組み合わせ」からなり、ファッション業界でプラスチックの代用となる、初の完全成形可能な生分解性エラストマーだと目されている。実際、その組成は60%がバイオベースであり、残りのプラスチックの部分も100%堆肥化可能であることを特徴としている。
重要なのはその使用感だが、すでにこのBioCirから作られた3Dプリントサンダルは何千人もの着用者に配布され、快適な使い心地を実証している。なおかつ、下の写真でも分かるようにたとえ使用後に廃棄しても、きちんと分解され、自然に還元されるようになっている。また同社は産業用堆肥環境での新しい BioCir スライドの廃棄と完全な生分解を支援する完全循環システムであるBioCyclingも導入しており、ユーザーがサンダルを使い終わったらテルアビブにある2つの回収場所のいずれかにっもどすことができるようになっている。
BioCirがファッション業界を刷新する
なにより注目すべき点はBioCirのスケーラビリティ(汎用可能性)だろう。今回はサンダルだったが、この素材は様々なプロダクトに使用することができる。3Dプリント素材として極めて容易に射出成形が可能であるBioCirであれば、大規模な複製も可能だ。
今回、同社がファッションアイテムに目を向けたのはファッション業界が世界最大の汚染源の一つとなっているからに他ならない。BalenaのCEOはBioCirの成功を事例とし次のように語っている。
「(BioCirが示しているのは)ファッションは素晴らしく、機能的で、地球に優しいものになり得るということです。我が社がファッションブランドがより循環的な未来に足を踏み入れるための扉を開く会社であることを誇りに思います」。
環境問題がいかに深刻とはいえ禁欲主義では取り組みは続かない。おしゃれも楽しみながら環境負担を減らす方途があるなら、それに越したことはないだろう。
とはいえ、現状ではエコな商品は比較的に高価な傾向がある。なので、余裕のある人から可能な範囲で取り入れていけばいいのだ。自分がそれを購入していないことを気に病む必要はない。それぞれがそれぞれのペースで気持ちのいい暮らしを実現すること。3Dプリント技術がそうした前向きな実践を支える技術となるなら幸いだ。