機械学習が3Dプリントを変える!? デザイン、設定、障害検出が完全自動化する前に
AIは3Dプリント業界には何をもたらしてくれるのだろうか
AIの研究者たちが目標にしているのは「考える機械」の製造だ。
機械学習は世界中のあらゆるデータを参照する。人間をはるかに圧倒する速度と能力で過去のすべてのデータを整理し、並べ替え、ふるいにかけることで、いまだ気づかれていない法則が明らかになる。さらにAIはその法則に基づいて、目的の実現のために最も合理的な方法を導き出す。
AIが私たちの仕事、日常生活、経済において、とても強力なツールとなっていくことは間違いない。では、AIは3Dプリント業界には何をもたらしてくれるのだろうか。あるいは、何をもたらしてくれる可能性が高いのだろうか。
以下では考えうるいくつかの可能性を提示してみたい。
1.フィラメントの最適設定
まず、FDM3Dプリンターに関していえば、AIによる機械学習が膨大な出力データの蓄積を元にフィラメントの最適な設定をその都度見つけ出してくれるようになる可能性がある。これは十分に実現可能だろう。必要なのは厳密なテストとデータの集積。それさえあれば、材料会社は変更した配合を入力して、多くのマシンで新しいフィラメントを最適に設定するためのアイデアを得ることができる。
3Dプリントにおけるトライ&エラーは、確かに3Dプリントの醍醐味の一つかもしれない。しかし、材料費だって決して安くはないし、一回の出力にも時間がかかる。出力失敗を可能な限り回避するということは誰しもにとって重要なテーマだろう。機械学習とAIはこうした失敗リスクの逓減に役立つはずだ。
2.スライサーソフトの最適設定
また、スライサーソフトにおける充填率の決定にも、機械学習は大いに役立つ可能性がある。様々な充填率とパターンの強度テストによって、様々な部品に最適な設定を提供してくれるはずだ。あるいは、レイヤーの接着設定、トラックの厚さ、レイヤーの高さなどについても同様の働きを期待できる。
3.障害検出と障害回避
さらに、AIと機械学習は障害検出にも役立つ可能性がある。これまでに失敗した3Dプリントのデータベースを元に、エラーの原因となる特定の高さ、形状、動き、モデルなどの障害の発生源をAIが発見してくれるのだ。原因が分からないまま出力失敗を何度も繰り返すストレスを思うと、これは非常に嬉しい。プロセスモニタリングを導入すれば、エラー、ミスプリント、およびその他のエラーを可能な限り早期に検出することも可能になるだろう。
4.デザインやモデリングの最適化
もう一つ、デザインやモデリング自体も最適化されていく可能性もある。これはすでにジェネレーティブデザインという形で様々な場面に導入されている。ジェネレーティブデザインとは、AIを利用した設計検討プロセスのこと。デザイナーやエンジニアは、設計目標とともに機能、空間条件、材料、製造方法、コストの制約などのパラメーターをジェネレーティブデザインソフトウェアに入力することで、可能性のあるソリューションをすべて見つけ出し、設計案をすばやく生成することができる。
アルゴリズムとジェネレーティブ デザインから3Dプリント用に設計されたハイブリッド スーパーカーHV-001
AIは3Dプリントの難易度を格段に下げる
さて、ここまでAIが3Dプリントにもたらしてくれる可能性があるものについて見てきたが、暫定的な結論としては、AIは3Dプリントの難易度を格段に下げてくれるだろうということが言えそうだ。材料の設定やスライサーソフトの設定、あるいは障害の発見やモデリングの試行錯誤など、現在の3Dプリントユーザーたちが頭を悩ませ、また3Dプリントの敷居を高いものにしている諸問題をAIが解決してくれるようになるかもしれない。
もちろん懸念点もある。カーナビの浸透によって地図を読めない人が増えてしまったように、失敗や試行錯誤の経験の喪失は、3Dプリント技術を深く理解する機会の喪失にも繋がるからだ。ある意味では、今3Dプリンターに慣れ親しんでいる世代が、3Dプリンターとガチンコで向き合った最後の世代となる可能性もある。何かを手にすれば何かを失う。とりあえず当面は、より良き3Dプリントを求めて3Dプリンターと格闘する日々が続きそうだ。