10μmスケールのオブジェを3Dプリントできる高分子インクが登場
DNAがアミノ酸をコード化するように分子配列を設計
3Dプリントの方式は多様に存在する。だが、自宅で3Dプリントをするという場合、現時点においてはやはり熱溶解積層方式と光造形方式が主流である。そして、それらは十分に複雑で繊細なオブジェクトを造形したいというユーザーの要望に応える力を持っている。
ただ、さらに微細なスケール、それこそマイクロスケールにおける3Dプリントを行いたいと思った場合、通常の素材では限界がある。これまでもマイクロレベルの3Dプリントは様々に行われてきたが、最近、ドイツの研究者らがこれまで以上に微細な3Dプリントを可能にする高分子インクを開発したという。
開発を行ったのはハイデルベルク大学の研究者エヴァ・ブラスコのチームで、今回、彼らは綿密に設計された分子配列を備えた3Dプリンティング構造の作成に成功したという。この技術は自然界のポリマーに見られる精度を反映しているとのことで、またこれはDNAが厳密な組成の特定のアミノ酸を正確にコード化する方法と似ているという。
開発プロセスにおいてチームは、まず分子配列の変更が印刷構造にどのような影響を与えるかを観察するために、8つの分子単位の異なる組み合わせからなる一連のインクを作成した。これは配列定義ポリマーと呼ばれるもので、複雑な化学合成を必要とする。この観察によってチームが目指したのは2PLP(2光子レーザープリンティング)と呼ばれる3Dプリンティングに最も適した分子を正確に設計することだ。2PLPはマイクロ光学を扱うためのツールとして用いられており、集束レーザー光を使用し、正確なスポットにそれを照射することで顕微鏡レベルの小さな構造を3Dプリントする技術のことだ。
現状、この2PLPにおける出力に使用可能な市販のインクは組成が不正確であるという。これは出力物の精度に大きく影響する。そこでチームは様々な分子配列パターンのインクを作成し、それぞれで3Dプリントを行うことで分子的に真に正確なインクを探り当てることにしたのだ。
下の画像はその様々なパターンの中からインクを用いた超微細の3Dプリントオブジェたちだ。
この最も左の画像のオオハシフトガラスのくちばしのスケールは10μmだという。μmとはmmの1/1000サイズであり、つまり10μmということは0.01mmということ。これはすごい。最終的にこの左の画像に使用されたインクが最も安定していることが判明したそうだ。
もちろん、単に小さな3Dプリント彫刻を作れる、というだけではない。この新しいインクは様々なマイクロスケールの部品に使用可能だ。小型の光学部品やマイクロ流体ツール、マイクロロボットの製造などなど、先端技術の開発に役立てられていくことは間違いない。極小の世界を変える3Dプリント技術に今後も注目していきたい。