SK本舗ユーザーのリレーコラム #02「3Dプリンターを使用したジュエリー製作」(Joh)
SK本舗ユーザーの皆様によるリレーコラムシリーズ第二弾は、3Dプリンターでシルバーアクセサリーの製作を行なっているJohさんです。
キャスタブルレジンを使った作業工程について詳しく解説してもらいました!
1.3D CADによるジュエリー製作
皆さんこんにちは。Steampunk Jewelry ForetのJohと申します。
長年シルバーアクセサリーの製作を行っておりましたが2012年より日本初のスチームパンクジュエリーブランド【Foret-フォーレ-】を立ち上げ、妻のMichikoと共に現在は山梨県富士吉田市の工房にて創作活動をしております。
当方が3Dプリンターを導入してからまだ1年と短いのでこのような場で発言していいのかどうか正直なところ戸惑いがありますが、3Dプリンターを導入するきっかけを与えてくださったSK本舗さんからの依頼ですので、ここでは僭越ながらも、3Dプリンターによるジュエリー製作の大まかな流れを紹介させていただきたいと思います。
この記事が、3D CADによるジュエリー製作に皆さんが興味を持っていただくきっかけの一つとなったら、たいへん幸いです。
2.ジュエリー業界と3Dプリンター
そもそも、ジェリー業界と3Dプリンターはこれまでどのように関わってきたのでしょうか。一般にはあまり知られていませんが、実を言うとジュエリー業界では、かなり以前から3Dプリンターが活用されてきました。
しかし、価格面における高いハードルがあったために、個人で導入することはなかなか厳しかった、というのが長らくの実情でした。そうした状況を変えたのは、近年の3Dプリンタ機体の低価格化です。
かつては一機数百万円から数千万円はしていた機体が、現在では安いところでは一機数万円から数十万円くらい。この低価格化により、個人でも3Dプリンターが導入可能になり、実際に私の周りでも3Dプリンターを導入するデザイナーがどんどん増えてきています。
個人でも導入ができる低価格帯の3Dプリンターの進化は目覚しく、これからますますユーザーが増えていくと共に、3D CADからジュエリー業界に参入する方も多くなっていくだろうことは確実です。とはいえ、一体3Dプリンターをどのようにジュエリー製作に役立てていくのか、イメージがつかない方もまだまだ多いのではないでしょうか。
そこで、ここではまず、ジュエリー製作において3Dプリンターがどう活用されているのかを見ていきましょう。
3. ロストワックス製法って何?
まず、ジュエリーの製作には大きく分けて2つの製法があります。
地金と呼ばれる金や銀、プラチナなどの金属を直接加工して製作する「鍛造法」と呼ばれるものと、ワックス(蝋)を削って製作した原型を用いてキャスト(鋳造)の行程を経て金属に置き換える「ロストワックス製法」と呼ばれるものです。
3Dプリンターによるジュエリー製作においては、後者の「ロストワックス製法」が採られます。これはつまり、ワックス原型を3Dプリンターによって製作するという方法です(方法によっては原型にワックスを使用しない場合もあります。こちらについては後述します)。
もちろん、ワックス原型の段階ではアクセサリーにはなりません。このワックス原型を「鋳造」することで最終的にアクセサリーが完成します。
そのため、3Dプリンターによるジュエリー製作を行う上ではこの「鋳造」についても多少知っておかねばなりません。次では簡単にこの「鋳造」について説明したいと思います。
4.鋳造における注意点
鋳造(キャスト)とは、ワックスやキャスタブルレジンで製作した原型を、「埋没材」と呼ばれる石膏によって型を取り、その型を高温で焼成し、原型を焼失させる事でできた空洞に、溶かした金属を流し込む行程のことをいいます。
もっとざっくり説明すると、3Dプリンターでモデリングした原型をもとに石膏の型を作り、実際にアクセサリーの原料となる金属をその型に流し込んでいく、というわけです。
ただし、この鋳造(キャスト)の行程は、残念ながら100パーセント成功するという保証がありません。原型の形状によっても失敗する確率は変化します。
たとえば、厚みが0.5mm以下であったり、逆に極端に厚みがあったり、あるいは広範囲に渡る細かい網状のデザインなどのものは、鋳造欠陥が発生する確率が高くなってしまいます。
鋳造を失敗させないためには、こうしたことをモデリングをしている時点で留意しておく必要があるでしょう。
5.目的に応じて様々な方法を使い分けよう
ちなみに、3Dプリンターでジュエリーを製作するにはこの鋳造(キャスト)の行程が必要不可欠となりますが、3Dプリンターで出力した原型を利用する方法にはいくつかの選択肢があります。
例をあげると、キャスタブルレジンで出力した原型を用いて直に鋳造(キャスト)する方法と、通常レジンなどで出力した原型を液体ゴムで型取りをし、ワックスに置き換えてから鋳造(キャスト)する方法などがあります。
キャスタブルレジンで出力した原型とは、つまりワックス原型ではないということです。これは出力した原型をそのまま鋳造できるというとても魅力的な方法ですが、いくつか気をつけるべきポイントもあります。
たとえば、現在、キャスタブルレジンを用いてのプラチナキャストはなかなか難しいようです。プラチナ製品を製作する際はワックスに置き換えてからキャストを行った方が無難かと思います。
また、キャスタブルレジンの鋳造(キャスト)はワックスよりも難易度が高いため、仕上がりに不安定なところがあることは否めません。
しかし、そうした欠点を踏まえても、デジタルで出力した型を直で鋳造(キャスト)できるということはとても魅力的ではあります。
たとえば手作業では難しいデザインや、ゴム型での複製が難しいデザインなどでも、3Dプリンターでキャスタブルレジンを使用することで可能になります。さらに、ワックス原型ですとちょっとした手直しも場合によっては作り直しになるような事案が、デジタルなら簡単に調整できてしまうということも、キャスタブルレジンの大きな利点と言えるでしょう。
逆にデザインによっては、3D CADソフトでモデリングしてそれを出力してからキャストを行うよりも鍛造で製作してしまった方が遥かに効率的な場合もあります。
つまり、重要なことは、デザインによって方法を使い分けたり、また様々な方法を組み合わせていくということです。そうした各自の工夫によって、3Dプリンターは創作の可能性を今以上に広げてくれるツールとして活躍してくれることになると思います。
今後、3Dプリンターが普及した暁には、私には想像もできなかったような柔軟な発想によって、素晴らしいジュエリーを生み出すクリエイターがどんどん現れてくることでしょう。その日がやってくるのが、今から楽しみでなりません。
6. 作業工程の解説(キャスタブルレジン使用)
さて、ここからは実際に、3Dプリンターとキャスタブルレジンを使用したアクセサリー制作の一連の作業をご紹介いたします。
大まかな流れとしては、
• モデリング
• 3Dプリンターにて出力
• 原型の修正
• 埋没
• 焼成
• 鋳込み
• 研磨
という手順になります。それでは順に見ていきましょう。
モデリング
3D CADソフト(Rhinoceros、Fusion360、ZBrush等)にてモデリングします。
画面上では大きく見えても実際のスケールになった際に厚み不足等が発生しないように注意しましょう。
3Dプリンターにて出力
出力に関する注意点は恐らく他の方が説明してくださるかと思いますので丸投げさせていただきます。(笑)
↑左側が意図的に失敗を誘発させた際の参考画像
※キャスタブルレジンを使用する際は出力後の洗浄及び二次硬化を特に念入りに行ってください。
原型の修正
サポートの除去や出力不良がないかチェックします。
埋没
キャストする際の石膏型の作成行程です。
1.ゴム台に3Dプリンターにて出力した原型を立てます。
2.ゴム台に鋳造リングを嵌め込み埋没材を流し込む。
※ここで完成する型を鋳型と呼びます。
焼成
電気炉にて高温で焼成し鋳型内のキャスタブルレジンを焼失させます。
キャスタブルレジンを使用する際はこの焼成がもっとも重要で難しい行程となります。
通常のジュエリー製作に使用するワックスは溶けてから焼失する性質を持っていますが、キャスタブルレジンは溶けずに気化する性質となりますので、一気に炉内の温度を上昇させると鋳型が圧力に負けて破損し、バリが発生する等の鋳造欠陥を招きます。
また、焼成が足りないとキャスタブルレジンが焼失しきれずに鋳型内に残り、金属を流し込んだ際にガスを発生させる事で鋳造欠陥を招きます。
焼成する際はキャスタブルレジンを効率良く燃焼させ、発生したガスを鋳型から排出する必要がある為、空気の流れを作る事が必要となります。
また、通常は埋没材内の水分が沸騰する事で内部のワックスを押し出す役割を果たしていますが、キャスタブルレジンを使用した際はその水分の沸騰とガスがぶつかり、その圧が鋳型の強度を越えた時に鋳型を破壊してしまうのではないかと個人的には推測しています。
以上の事からキャスタブルレジンを使用の際はワックスの時よりも低温から徐々に温度を上昇させる綿密な焼成プログラムを組む必要が出てきます。
鋳込み
鋳造機にて鋳型に溶かした金属を流し込みます。
鋳造機の種類も圧迫、真空、吸引、遠心鋳造機等があります。
画像で使用しているのは遠心鋳造機となります。
研磨
画像はキャスト後に鋳型から取り出したシルバーの指輪となります。
画像からもわかるように取り出した直後は酸化皮膜が付着していたりしていますのでこれを希硫酸に漬け込み皮膜を除去します。
皮膜を除去すると表面が白くなり、これを研磨していくと光り輝くシルバーリングとなっていきます。
ジュエリーとして美しい鏡面を得る為には研磨の行程が必要不可欠となりますので細かすぎるデザインはこの研磨作業が困難になりますので研磨作業の工程を考慮したデザインにする必要があります。
以上で簡単ではありますが大まかな作業内容となります。
ジュエリーの製作工程に少しでも興味を持って楽しんでいただけたなら幸いです。
7. 最後に
今現在、鋳造(キャスト)の機材なども3Dプリンターと同様にインターネット通販で気軽に購入する事ができる時代になっています。たいへん便利な時代になりましたが、とはいえ、金属加工には大変危険な作業も伴います。機材も扱いを一歩間違えれば大事故にも繋がってしまいかねません。
この記事を読み、ジュエリー製作にチャレンジしてみたいと思っていただけたとしたらとても嬉しいです。実際、3Dプリンターが普及することで、ジュエリー製作は今後ますます身近なものになっていくと思います。ただ、安全性の観点などからも、その際はまず彫金教室などで基礎を学んでいただくことを強くお勧めいたします。
くれぐれも事故を起こさないようにご注意の上、3Dプリンターによるジュエリー製作を楽しんでいただけますことを願っております。
著者名:Joh
台湾出身。
都内ジュエリー専門学校にてジュエリー製作の基礎を学び、2004年にシルバーアクセサリーブランドを設立。
現在はスチームパンクジュエリーブランドForetにて活動中。
【Foretホームページ】http://steampunk-foret.com/
Twitter ID: @gallery_jo
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