世界的な3Dプリンター専門メディアが選んだ無料モデリングソフト10選──これでもうモデリングソフト迷子から解放される!
モデリングソフト迷子を抜け出すために
3Dプリンターは自分の思い描いた立体物を自由につくりだす上で、またとないツールである。以前なら、なにか複雑な造形を行うためには、それ相応に複雑な工作過程を経る必要があり、しかも、そこには物理的な指先の技術が必要であった。子供の頃から手が不器用だった筆者のような人間にとって、こうした工作は挑む気すらおきないほどハードルの高いものである。正直なところ筆者自身、人生において自分が「ものつくり」を行うことはないだろうと、諦めの境地にいた。
しかし、いまや「ものつくり」に工作の技術は不要なのだ。必要なものは3Dプリンターとレジン、それさえあれば、まるで魔法使いのようにありとあらゆるものを出力できるというのである。すごい時代がきたものだ。これはうかうかとなんてしていられない。さあ、世界中の不器用コンプレックスの諸君、「ぶきっちょ」の誹りを受け続けた雪辱を晴らすべく、今すぐ「ものつくり」を始めようじゃないか! そして、プラモデルづくりに失敗して落ち込んでいた幼い日の自分に満面のスマイルとピースサインを送ろうじゃないか!
3Dプリンター(ELEGOO MARS 2 PRO)
…と、勢いよく書いてはみたが、3Dプリンターで「ものつくり」を行うためにも特定の技術は必要なのだ。3Dプリンターは魔法のランプや四次元ポケットではない。自宅の3Dプリンターに向かって「◯◯のフィギュアが欲しいよ、3Dプリンター」と声を掛けてみたところで、せいぜいが「すみません、よく分かりません」というアレクサの誤反応が返ってくるくらいである。あるいは、もう少し先の未来には、アレクサと連動した3Dプリンターが一声かければお好みのものを出力してくれるような時代が訪れる可能性もあるが、今しばらくは出力の準備は自分でしなければならなさそうだ。
ううむ、なんとも世知辛いが、とはいえ、あの指先至上主義の時代よりかは格段にマシである。これ以上ボヤいていても始まらない。まず出力のためには何が必要なのだろうか。
言うまでもなく、それは3Dデータである。3Dプリンターで何かを出力するためには、まず出力物の元となるデータが必要なのだ。なるほど、たしかに我々生命もまたリボン型の二重螺旋構造を持つDNA情報を元にプリントされた出力品であることを思えば、合点がいく。物事には何事にも見取り図が必要だろう。3Dプリンターの場合、それが3Dデータであるというわけだ。
そして、その3Dデータを用意する方法(それも無料で)はどうやら現状では2つあるらしい。1つは3Dデータを無料で配布しているサイトを利用し、気に入ったデータをダウンロードすることのようだ。これは実に便利である。なんといっても他の誰かが作ってくれた3Dデータをどこの馬の骨とも分からぬ筆者のような人間が好きに使ってよいというのである。いまや3Dデータはインフラの一つになったということだろうか。時代は進んだものだと感心してしまう。
それに実際のところ、様々なデータがすでに大量に用意されているのである。データ無料配布サイトも数多あり、このSK本舗ウェブサイト内にもおすすめデータ配布サイトをまとめた記事があるので、是非とも参照してほしい。無精者な筆者としては、こんな便利なサイトがあるのなら、もう永遠にフリーライダーとして生きていこうかと思ってしまうくらいだ。
しかし、それでもやはり、自分の好きなものを好きなように出力してみたいというのが、人情というものである。生きていく上で特に必要もないのにわざわざつらい思いをして登山をするのと同じ心情だ。頂上から見渡すあの雲海の絶景は、道中の艱難辛苦があってこそ掛け替えのない唯一無比の光景となるのである。3Dプリンターにしても、自分であれこれと苦心してモデリングすればこそ、それが見事に出力成功した暁の歓喜はひとしおというものなのだ。
すると、やはり自分自身で3Dデータを作成しなければならない。その際に必要となるのがモデリングソフトである。このモデリングソフトには様々あって、それぞれに特性があり、備えられている機能にも違いがある。あるいは、無料のものもあれば有料のものもあり、バリエーションは実に豊富だ。選択肢が多いということは豊かなことであるものの、一方で人を悩ませる原因にもなる。特に筆者は名作RPG「ドラゴンクエスト5」の結婚相手の選択でさえ、三日三晩は悩み抜いた男だ(結局、筆者は天空の盾がほしいのでフローラを選んだ)。しかも、その選択肢はSFC版ではたったの2択、DS・スマホ版にしたところでせいぜいが3択である。
一方、モデリングソフトときたら3択どころではなく、何十、下手したら何百とある。初心者であればあるほど「ああ、一体どれを使えばいいのか!」と困惑し、俗に言う「モデリングソフト迷子」に陥ってしまうのである。迷子は怖い。リングの貞子くらい怖い。果たして、この迷子の呪いから抜け出す道はあるのだろうか?
去る9月、世界的な3Dプリンティングの専門メディアである「ALL3DP」がある記事をリリースした。タイトルは「Top 10 Free 3D Modeling Software for Beginners」。つまり、初心者向け無料モデリングソフト・トップ10というわけである。まさに、これぞ、モデリングソフト樹海で遭難しかけていた我々が探し求めていた情報ではないか。しかも世界有数の専門メディアによる公式のランキングである。これを大いに参考にしない手はないだろう。
Top 10 Free 3D Modeling Software for Beginners(ALL3DP)
https://all3dp.com/1/best-free-3d-modeling-software-for-beginners/
というわけで、いささか他力本願な気もしなくはないが、以下では「ALL3DP」の発表したトップ10ランキングを追いながら、それぞれのモデリングソフトの特性を紹介してみようと思う。ここまでくるのに随分と無駄話が多くなってしまったが、これは単純に筆がノッてしまっただけであり、今更だけど別に読み飛ばしてくれても構わなかった。みなさま、お付き合いいただきありがとうございます。それでは張り切って、おすすめ初心者向け無料モデリングソフト、第1位から見ていきましょう!
初心者向け無料モデリングソフトランキング
第1位 TinkerCAD
第一位は言わずと知れたTinkerCADだ。Autodeskによって作成された無料の3 Dモデリングソフトウェアで、その使いやすさには定評がある。
もともと、教育目的で設計されたソフトとのことで、そのため、初心者やお子様にも優しいつくりとなっており、現在、最も手軽かつ身近なモデリングソフトと言ってよいだろう。ブラウザからもアクセスが可能(つまりダウンロード不要)、また様々な3Dプリンターとの接続が可能であり、これも大きな魅力である。
初心者向けなのに機能も豊富で、日本語にも対応しているなど、長く付き合っていけるソフトとなっている。「モデリングとか自分にできる自信ないなあ」と思っている方でも安心の、名実ともにナンバー1初心者向けモデリングサイトである。
TinkerCAD
第2位 Vectary
Vectaryはオンラインベースのソフトでありインストールは不要。「最も簡単なオンライン3 DおよびAR設計ツール」を謳っているだけあり、その使いやすさには定評がある。
元々はグラフィックデザイン、プロダクトデザイン、ゲームデザインなどを行うデザイナーやメーカー向けに作成されたもので、もちろん3 Dプリント用のデータにも対応しており、レンダリングも可能。基本的には無料ソフトになるが有料プログラムもあり、こちらは月額25ドル。まあまあのお値段だが有料ユーザー数は多いので、それだけ機能性が高いということだろう。
チュートリアルビデオも豊富のため、モデリング初心者の技術習得にはもってこいだとか。
Vectary
第3位 SketchUp
SketchUpもまた、簡単で柔軟性のある3 Dアプリとして人気がある。歴史は古く、2000年からサービスが始まっている。
バージョンが複数あり、基本は有料だが、完全に無料で使用できるバージョン「SketchUp Free」もある。無料版は初心者に易しいつくりとなっており、初級者にはオススメだ。
無料版はブラウザベースのソフトになっていて、使いやすい学習曲線、直感的なツール、ユーザーフレンドリーなインターフェイスを備えていると好評だ。もちろん、大規模で複雑なオブジェクトも設計でき、初心者から上級者になって以降も、制作の良き相棒となるであろうおすすめのソフトである。
SketchUp
https://www.sketchup.com/plans-and-pricing/sketchup-free
第4位 Meshmixer
Meshmixerは1位のTinkerCADと同じAutodeskが開発した非常にシンプルな3 Dモデリングソフトだ。初心者でも3 Dモデルを簡単に操作できるように作成されている。
ALL3DPの記事にも「初心者、特に3 Dプリントに興味のある人にとっては素晴らしいプログラムだ」と書かれており、導入にはもってこいかもしれない。誰もが完全に無料で利用できるのも大きな魅力だ。
3 Dスキャンを使用しているユーザーにもオススメとのことで、キャプチャしたばかりのモデルをクリーンアップして修復する場合にも最適のソフトらしい。
Meshmixer
第5位 FreeCAD
FreeCADはその名の通り完全無料のモデリングソフト。2002年よりサービスを開始しており、それ以前までの高価なソフトの代用ソフトとして注目を浴びた。
機能面においては初心者にとって最もイージーであるとは言い難いが、オープンソースであるこのソフトは、新しいモジュールやツールがユーザーによって追加され続けており、長く付き合っていく上では非常に魅力的なソフトであると言える。
FreeCAD
第6位 ZBrushCoreMini
スカルプトのフリーソフトの代表格といえばZBrushである。こちらも3Dモデリング初心者にも習得しやすいと定評がある。
ZBrushではユーザーは粘土の塊を、8つの異なるツールを使用して造形していくことになる。より手作りに近いイメージでモデリングをしたいという人にはぴったりだろう。自由度としてはCADよりも高い。
CADに飽きてきたなあ、そろそろスカルプトでもしてみようかなあ、というスカルプト初心者にはまずZBrushCoreMiniがおすすめだ。
ZBrushCoreMini
https://zbrushcore.com/mini/compare.php#
第7位 3D Slash
こちらもブラウザベースのモデリングソフト。なんでもゲーム「Minecraft」に似た感じのビルディングブロックによって造形していくソフトのようで、ユーザーは、ハンマーやコテやドリルなどを使って、立方体を修正していくことになる。
ゲーム感覚で「石材を削るように」データを作れることから、子供や初心者にもとっつきやすく、モデリングと聞いて「うっ、そういうの苦手」となってしまうような方にこそおすすめできる。
現状はシンプルな機能しかないようだが、オープンソースのため今後、どんどん発展していく可能性も秘めている。なお有料版もあり、月額にもいくつかのコースがあるようだ。
3D Slash
https://www.3dslash.net/index.php
第8位 Wings 3D
オープンソースで開発されているコミュニティ主導型のサブディビジョン系モデリングソフトだ。サブディビジョンとは、ポリゴンとNURBSの両方の側面を合わせもった造形方式のこと。要するに滑らかさと鋭利さを兼ね備えた方式である。
ユーザーインターフェースのシンプルさには定評があり、初心者に向いているというレビューもよく見かける。機能が限られているため、複雑なモデリングには向かない。
コミュニティベースのソフトのため、他のユーザーからの情報が得やすいのも初心者にはありがたい。
Wings 3D
第9位 Leopoly
LeopolyはCADよりもスカルプト向けのフリーソフトだと言われている。操作は簡単で、学生や初心者の練習にも適しているそうだ。
「ユーザーは粘土のボールやその他の基本的な形から始めて、彫刻、絵画、エンボス加工などで独自のデザインを作ることができる」とのことで、デザイン性の高さには定評もある。
Leopoly
第10位 BlocksCAD
ラストを飾るBlocksCADは、あのレゴブレックの要領で、カラフルなレンガとコードを組み合わせてモデリングするという変わり種ソフトだ。
もとより、スクリプトのみで簡単に3Dモデリングができるようにと開発された教育的なソフトのようで、そのため、より高度なCAD技術を身につける上でのよき訓練ソフトとなっている。ここに挙げた他のソフトよりは、ややシステムが複雑なようだが、それも訓練のため、ということだろうか。
いずれにせよ、懐かしのレゴブロック感覚でモデリングをできるというのは面白い。すでに他のソフトを使っているという方でもお試し的に使用してみると新鮮な気分を味わえるはずだ。
BlocksCAD
あとはモデリング技術を磨くのみ!
さて、「ALL3DP」の初心者向け無料モデリングソフトランキングを追いながら、それぞれの特色を見てきたが、いかがだっただろうか。CADだけではなく、スカルプトやレゴブロック方式など、データ作成の方法も様々で、色々と目移りしてしまいそうだ。
とはいえ、いずれのソフトも無料で利用可能であるため、時間がある方はひとまずここに挙げられている10のソフトを順番に使ってみるというのもありかもしれない。もしそんな時間がないという方はランク1位のTinkerCADを試してみるというのがベタではあるが無難だろう。そのためのランキングというものだ。
なんにせよ、これでモデリンングソフト迷子民から脱却できたわけだから、あとは技術を磨くのみである。他力本願な筆者としては、この記事でモデリングに目覚めた人がめきめきとモデリング技術を上達させ、やがて作成された素晴らしい3Dデータを無料データ配布サイトにアップしてくれる日を、まだかまだかと首を長くして待っていようと思う。皆さん、期待しています!