フィラメントは本当に湿気に弱いのか|ある実験がFDM3Dプリンターの常識を覆した?
「フィラメントは湿気に弱い」という常識を疑う
FDM3Dプリンターの素材であるフィラメントの大敵といえば湿気だ。
一般にフィラメントは湿気に弱く、また湿ったフィラメントは3Dプリントに適さないと言われている。それゆえフィラメントをいかに乾燥させておくかが、これまで多くのユーザーの関心の的だった。
これはある種の常識だ。そして、一度常識となった情報は、その後なかなか疑われるということがない。
3Dプリンター系YouTuberであるThomas Sanladererは、果敢にもその常識を真正面から疑ってみせた。
すなわち、「湿ったフィラメントは本当に悪いのか?」。
Thomas Sanladerer
Thomasが試みたのは、三種の一般的なフィラメント、PLA、PET-G、ASA のサンプルを使用した実験だ。彼はそれらのサンプルを机の上、庭の外などいくつかの環境に保管し、最終的には丸1週間、それらを水に浸した。
普通に考えれば、これはフィラメントにとって最悪の出来事だ。想像するだけで悲惨な結末が眼に浮かぶ。
さて、Thomasはその後、それらを用いて大量の3Dプリントを行なったのだが、果たしてその結果はどうだったのだろうか?
フィラメントは水浸しでも問題ない?
端的に書こう。
水浸しになったフィラメントたちは、すべて無事に3Dプリントされた。
そもそもフィラメントは、それらの化学組成と環境に応じて、異なる速度で水を吸収する。たとえばナイロンは明らかに給水率が高い。そして、吸水率の増加に伴って発生する最も明白な3Dプリントの欠陥は糸引きだ。これはこの実験でも発生した。
確かに糸引きは処理が面倒だし、表面品質を多少低下させることはある。しかし、それ以外はどうかというと、フィラメントの吸水は最終オブジェクトの強度にはまるで影響を与えないということが、今回の実験におけるThomasの出した回答だった。
意外に思った方も多いのではないだろうか。これまで散々フィラメントの乾燥に注いできた努力を思えば、どこか肩透かしを食らったような気持ちにもならなくない。ただ、少なくともThomasの実験結果において、これは事実なのだ。
ただし、Thomasによれば、給水したフィラメントは、エクストルーダーの速度を落とす必要があるモデルの出力に関しては、印刷品質そのものを悪化させる場合があるらしい。これについてThomasは、フィラメントがホットエンドでより多くの時間を費やす場合、含まれた水分が長時間沸騰状態に置かれることになり、それが印刷品質に多少の影響を与えることになる、と分析している。
ちなみにフィラメントの種類としては、PLAが最も影響を受けず、PET-Gが最も影響を受けたそうで、種類間においても結果にバラつきがあったらしい。
とはいえ、いずれにしても給水はフィラメントの致命傷ではない、というのがThomasによる最終判断である。
致命傷でこそないものの
最後にもう一度まとめよう。
フィラメントの給水はオブジェクトの最終品質、特に強度に関してはほとんど影響が出ない。
ただ、場合によってはある程度の影響が出ることもあり、また単純に糸引きの処理は面倒だという問題はやはり残る。
そう考えると、フィラメントの給水は致命傷でこそないものの、やはり避けた方が無難というのが、Thomasの実験結果を踏まえた、受け手としての結論となりそうだ。
いずれにしても、こうした実験は非常に興味深い。何事も思い込みは禁物である。実験してみた結果がこれまでの方法に特別な変化をもたらすことがなかったとしても、何がどの程度、どういう理由でダメなのかを知っておくことは、物事をきちんと理解する上では重要だ。
その意味において、Thomasのこの試みは賞賛に値しよう。
というわけで皆さん、引き続きフィラメント管理にあたっては湿気にくれぐれも気をつけてください。