食用3Dプリンターの原型となった「ピザの自動販売機」

現在3Dプリンターには様々な造形方式が生まれており、樹脂による出力、金属による出力など、素材も多様である。私たちが普段口にするような食品もその例外ではなく、食用3Dプリンターの技術的な発展は近年、実に目覚しい。

食用3Dプリンターの原型といえば、2015年に登場したピザの自動販売機がそれにあたると言うことが出来るだろう。この機械は1台の機体の中で既に用意されたピザの生地にトマトソースとチーズがトッピングされ、最後にオーブンで焼くというプロセスをオートメーションによって行うものだ。どちらかといえばクッキングマシンというイメージで、いわゆる3Dプリントのイメージとはやや異なるかもしれないが、特定の素材を用いて自動で立体物を出力するという意味において、これはけだし3Dプリンターだと言える。

 

 

近年、食用3Dプリンターはより技術的に発達しており、すでに3Dプリンターを使用するレストランも海外では少しずつ登場してきている。現在は高級レストランやベーカリーにしか導入されていないが、今後、食用3Dプリンター市場が急成長するであろうことは間違いない。各家庭に食用3Dプリンターが設置される日もそう遠くはないだろう。そこで、ここではピザの自動販売機に端を発する食用3Dプリンターの現在について、その技術的な部分を紹介すると共に、それがもたらす利点や欠点などについても考察してみたい。

 

食用3Dプリンターの出力方式

現在登場している食用3Dプリンターはいずれも材料押し出し法(FDM方式)と似たタイプのプリンターになっている。理論上においては、ペーストまたは半液体状態の材料であれば全て成形し、3Dプリントすることが可能であるとされており、たとえばチョコレートやパンケーキの生地などがその代表例である。

しかし、実際には全てのペースト状或いは半液体状の食材であれば何でも3Dプリントできるというわけでもない。というのも、食事の3Dプリントにあたっては使用するプリンター専用のカートリッジを事前に購入する必要があり、このカートリッジの種類に作れるものが依存しているからだ。

また現時点で登場している食用3Dプリンターにおいては、いわゆる「調理」をすることが出来ない。例外としてPancakeBotという3Dプリンターは生地を押し出し、最後に焼くことまで可能であるが、PancakeBotにおいても生地を裏返す際は人の手を介する必要がある。

 

 

その他、食用の3Dプリントの技術として、現在、粉末積層法(SLS方式)で食材を添加していくプロセスなども研究されているが、これが近年中に実現可能かどうかはまだ不明である。

 

食用3Dプリンターの長所と短所

食用3Dプリンターまだ黎明期であり、今後大きく成長していく可能性は十分にあるが、現時点では下記の長所と短所が見られる。

 

<長所>

 

・食品の複雑なデザインが出来る

これは料理ではなくチョコレート細工といったデザインの観点となるが、人間の手では実現できない、もしくは製作するのに非常に時間を要するデザインを作成することが出来る。

 

・個人に合わせた食事の調整が出来る

材料を用意すれば、その食事当たりの栄養素、ビタミン、カロリーなどを正確に把握し制限することが可能である。そのため、今後は食事制限が必要な患者がいる病院や施設で導入されれば患者ごとに食事のカスタマイズが可能になる。

 

・食物消費の促進

栄養価は高いが口にすることに心理的な抵抗のある昆虫などを、食べやすい形状(半液体状)や形にすることで消費の促進に繋げることが出来るようになると考えられている。

 

・再現性が高まる

同じ原材料、出力設定、互換性のある機体が揃っていれば、レシピを誰でも再現することが可能になる。

 

・(適切な環境で正しくメンテナンスを行えば)清潔で安全な食品を口にすることが出来る

これは3Dプリンターに限った問題ではないが、材料を適切な環境で保管し、清潔な空間で3Dプリンターをきちんとメンテナンスすることが出来れば常に清潔で安全な食品を出力・消費することが出来る。

 

<短所>

 

・出力のための経験(トレーニング)が必要

食用以外の3Dプリンターでも同様だが、3Dで何かを出力するにはある程度の経験が必要である。食用3Dプリンターも例外ではなく、加えて消耗品や機械のメンテナンスコストも鑑みると3Dプリンター導入の障壁となるとも言える。

 

・材料に制限がある

上記で既に述べている通り、現在出力可能なものはペースト状か半液体状となっている材料のみである。そのため3Dプリントできない食品がある他、そもそもペースト或いは半液体の状態まで前もって準備する必要があると言い換えることが出来る。食材をそのまま使用できないという点では準備に手間がかかる。

 

食用3Dプリンターの紹介

それでは、現在ではどのようなプリンターが登場しているのだろうか。プロ向けと一般ユーザー向けで分けて紹介したい。

 

<プロ向け>

2020年の段階ではプロ向けの3Dプリンターはほんの一握りである。また、工業用サイズの機械はまだ登場しておらず、卓上サイズであるのが特徴である。こういったプロ向けの機械はレストランやイベントなどで使われている。

 

・byFlow Focus

 

このプリンターはWi-Fi環境下で使用することが出来、ペーストされた食品を充填できる再利用可能なカートリッジを使用できるのが特徴である。現在約4300ドルで売られており、ミシュランの星を獲得したオランダのレストランSminkでは、このプリンターを利用して複雑なデザートを作成している。

 

・MMuse

チョコレート専用で、直径4mmまでのチョコレートチップを処理し、それを溶かして押し出すという特徴の3Dプリンターである。非常に頑丈で重量は約25kgあるが卓上に置くことが出来る。中国で製造されており約5700ドルで売られている。

 

・Foodini

 

 

5つの異なるカートリッジを同時に使用することで材料の多様性を実現させ、様々な種類の食品を出力できるプリンターである。このプリンターは健康的な栄養アプローチも行っており、新規ユーザーにはレシピが提供される。価格は約4000ドルである。

 

<一般ユーザー向け>

まだ導入は少ないが、一般ユーザー向けの食用3Dプリンターは既に販売されている。

 

Mycusini

 

 

ドイツのスタートアップ企業Print2Tasteで発売されたチョコレート用の3Dプリンターである。内臓バッテリーにより最大2時間のオフグリッド出力が可能で、カートリッジは簡単に充填及び清掃ができるが、リフィルは直接購入する必要がある。価格は約370ドルである。

 

PancakeBot

 

 

パンケーキ用の3Dプリンターで出力設定が細かく設定でき、ユーザーインターフェイスがシンプルで使いやすい。約300ドルで販売されている。

 

Procusini

 

 

Print2Tasteで発売されているもう1種類の3Dプリンターで、プロシューマ―市場を対象としている。カートリッジが出力中に60℃まで加熱し、ケーキデコレーション用のマジパンなど厚い材料の押し出しをすることが出来る。こちらは約2600ドルで販売されている。

 

 

従来の3Dプリンターの食用への変化

上記で紹介した3Dプリンターは初めから食用に使われることを念頭に開発された3Dプリンターだが、プラスチックを出力する従来の3Dプリンターを活かして食用3Dプリンターを開発する企業も出てきた。元々食用ではないため、食品を出力する際に使いづらさを感じる所もあるようだが、新しく食用プリンターとなって登場した3Dプリンターを以下に紹介したい。

 

WASP 2040

 

 

このプリンターは従来開発されていたLDM粘度押出システムを使用してペースト状のものを出力している。2017年にこのメーカーは自社のプリンターを使用してグルテンフリーの料理を製造するプロジェクトを開始した。

 

ZMORPH THICK-PASTE EXTRUDER

 

 

こちらはサードパーティのペースト押出システムで、Arduino/RAMPSボードを備えたほとんどの3Dプリンターで動作することが出来ると言われている。

 

食用3Dプリンターの未来

ここまで見てきたように、3Dプリンターは食品の出力を行うプリンターだが、一方でそもそもの食材を3Dプリントする技術も開発されている。それが植物性タンパク質の人工肉を出力する3Dプリンターである。現在人工肉の3Dプリント技術を開発している新興企業が多く存在しており、これらの企業は二酸化炭素排出量を削減するべく開発を急いでいる(詳しくはhttps://skhonpo.com/blog/kfcでも取り上げている)。3Dプリンターは生活を豊かにするだけでなく、地球環境改善にも役立つということである。

 

食肉産業の危機を3Dプリンターが救う? 「Redefine Meat」がプリントする精巧な代替肉
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その他、NASAや民間企業では宇宙船での生活を向上させる手段として3Dプリンターの導入を検討している。この技術により宇宙で食べられる食事や見た目を多様化することが期待されている。宇宙へ行く技術のみならず、こういった宇宙生活を営む技術も開発されることによって、宇宙への移住という壮大な夢の実現へも、また一歩近づくことができるかもしれない。

果たして食用3Dプリンターはどのような新しい扉を開いてくれるのだろうか。大いに期待しつつ注目していきたいと思う。