
驚異の3Dバイオプリンティングの世界——近年の注目ニュースを振り返る
生命を扱う3Dプリンター
様々なジャンルで驚きをもたらしている3Dプリンターだが、中でも未来世界を予感させるような技術革新が相次いでいるのが3Dバイオプリンターである。
バイオとはそもそも「生命」や「生物」などの意味。つまり、3Dバイオプリントとは、生物に類する有機物をプリントする技術のことで、主にその研究開発は生物医学工学の発展に役立てられている。
すでに話題となったところでは人工肉や人工臓器などの3Dバイオプリントがあるが、近年ではますますの技術的進歩を遂げ、様々な成果が発表されている。そこで、ここでは近年でとりわけ注目すべきと筆者が感じた3Dバイオプリント関連ニュースを紹介してみたい。
3Dバイオプリンティングの最前線こそ人類の進歩の最前線。それでは順番に見ていこう。
1.「もう実験動物はいらない?」コロナ研究にも役立てられる3Dバイオプリント身体
ノースカロライナ州にあるウェイクフォレスト再生医療研究所 のアンソニー・アタラ氏は、薬剤の毒性をテストするための新しい多臓器チップを開発している。アタラ氏が発表した2020年2月の論文によると、「チップ上の3 Dボディ」は、市場に参入した後に薬剤を回収するリスクを減らすだけでなく、より迅速で経済的な薬剤開発につながる可能性があるとのこと。
画像引用:WFIRM
この「チップ上の3Dボディ」とは、多臓器の身体を単純化したモデルを極小のチップ上に再現したもの。通常、多臓器の3Dプリントは極めて複雑であり、その再現には巨大な設備が必要だが、この技術においては、極小サイズにおいてそれらを再現することで、薬剤の実験コストを大幅に下げ、またペースアップすることができるのだ。
実際、この3DボディはCOVID-19の研究にも使用されており、この3Dボディを用いてCOVID-19ウィルスと戦う薬剤のテストがすでに行われているらしい。重要なことは、この実験が動物モデルを使った実験よりもはるかに役立つ可能性があるということ。それが事実ならば、これ以上、薬剤開発のために動物実験を行う必要がなくなるということだ。
2.「来たる大移住に備えて」ロシアの宇宙飛行士が宇宙空間で軟骨を3Dバイオプリント
現在、3Dバイオプリンティングの最前線にあたる実験は、なんと宇宙空間で行われているようだ。人口爆発や気候変動などを受け、居住コロニーとしての地球に限界がきているという警鐘は数多く鳴らされている。そんな中で実際に検討され始めているのが地球外コロニーの形成である。
その形成が間もなく始まるとすれば、重要なことは宇宙空間における医療問題だ。そのためにも低重力環境における3Dバイオプリンティングの研究が、ロシアのバイオテクノロジー企業3DBioprinting Solutionsによって進められているのだ。
すでに2018年にBioprinting Solutionsによって打ち上げられた3Dバイオプリンター「Aut」は、国際宇宙ステーション での軟骨の3Dプリントに成功している。これは宇宙再生医療に大きな可能性を示したとされており、その研究成果が2020年7月に発表され話題となった。
3.「音波を使って細胞を3D生成!?」スイスのバイオテックが音響バイオ3Dプリンターを発売
スイスのバイオテクノロジー企業 mimiX Biotharapeuticsが、同社初となる音響バイオ3Dプリンター「CymatiX」を2020年に発売し話題となった。これは同社が独自開発した「SIM(音響誘導形態形成)」という技術を搭載したもので、音波による共振現象を利用し、生物学的な粒子をほんの数秒で高解像度パターンへと組み立て、多細胞構成物を生成するのだという。
音波を用いるために細胞の生存率や活動への影響が少ないことから、この技術はすでに再生医療や細胞治療の分野で大いに役立っているとのこと。音響波で細胞が作れてしまうだなんて、ちょっと驚きの技術である。
4.「海の生態系を3Dバイオプリント技術が救う」バイオプリントサンゴが白化した珊瑚礁を保全
3Dバイオプリント技術が役立てられているのは必ずしも医療分野ばかりではない。2020年4月、科学誌『Nature Communications』に、米国のケンブリッジ大学とカリフォルニア大学が共同でサンゴの微細構造を模倣して微細藻類を速く成長させることができる構造を3Dプリントにより作製したことを発表した。
現在、白化が進んでいる各地のサンゴ礁は、もともと、海中の光合成において大きな役割を果たしていたと言われており、その死滅が地球温暖化に甚大な悪影響を与えているとされていた。この研究ではそうした事態を受け、サンゴ礁を復活させるべく、サンゴを3Dスキャンし、そのモデルを利用して高精度の3Dプリントサンゴを設計。自然のサンゴの入り組んだ構造を作成する上では高精度のバイオ3Dプリンティング技術を使用した。
このように3Dプリントされたサンゴを光合成の主体である藻類の培養器として使ってみたところ、これまで使用されてきた藻類の培養よりも成長速度が100倍速いことが判明。今後のサンゴ礁保全活動において、大いに役立つだろうと注目されている。
5.「生きた人間を3Dバイオプリントする日も近い?」心室まで再現された3Dバイオプリント心臓に世界が衝撃
カーネギーメロン大学の研究チームは、ヒトの心臓のMRIスキャンから、心臓の正確な模型を3Dバイオプリントによって形成することに成功、2020年に論文としてその成果を発表した。
このバイオ3Dプリントは「Freeform Reversible Embedding of Suspended Hydrogels(FRESH)」と呼ばれており、外科医が手術の前に、患者の心臓の模型を使って練習する方法を提供することを目指して作られたものだ。素材には海藻由来のアルギン酸が使用され、実際に触れてみると形だけでなく触感も本物とほぼ変わらないという。
さらにこの心臓模型には血液のような液体を流し込むことも可能であり、さらに研究チームは最終的には生きた細胞によって拍動する心臓を作りたいと考えているそうだ。研究チームによればしかし「その実現は10年以上は先」とのこと。生命のコアである心臓を3Dプリントできたなら、人造人間の夢だって見えてくるかもしれない。恐れおののきながら楽しみにしたい。
まとめ
いかがだっただろうか。
ここに取り上げたのは、ほんの一部であり、他にもレーザー焼結法プリントによる糖のネットワークを利用した血管の3Dプリンティングや、チップ上のミニ腎臓の生成成功など、2020年だけでも様々なニュースが飛び交っていた。
人間の身体に直接関わる分野なだけに、私たちの生にも大きな影響があり、それこそ、現在では高額な最先端医療などの低価格化を促すような研究も数多く行われている。
果たして今後どんな驚きが待っているのだろうか。今から楽しみでならないのだ。