隈研吾とVavaがゴマを素材に3Dプリントした環境配慮型サングラス――マイクロプラスチック問題に向き合う
マイクロプラスチックとファストファッション
気候変動を始め、環境破壊の深刻さが叫ばれている昨今、海中に波及したマイクロプラスチックもまた、非常な関心を集めている。
マイクロプラスチックとは、人間の目には見えないミクロレベルのプラスチックの破片。この破片が海水に流れ込み、生態系に影響を与えるのではないか、と懸念されているのだ。
原因となっているものは様々ある。たとえばゴルフ場の人工芝なんかも有名だ。風に乗って海へと流れ着いた際に、分解され、マイクロプラスチックに変わるのだという。あるいは生活排水。洗濯機などの排水の中に含まれる微細なプラスチックの破片が海洋汚染を引き起こしているという指摘もある。
実は、マイクロプラスチックがどれほどの悪影響を海洋生物などに与えるかは定かではない。ただ、定かではないということは、甚大な悪影響がある可能性もあるということだ。生態系がそれによって破壊されてからではもはや手遅れ。リスクに対しては可能な範囲で早めの対策を練るのが常套手段だろう。
そうした対策の上でファッション業界も動き出した。ここ20年、世界を席巻したファストファッションは、低価格で商品を大量に生産するため、オーガニックコットンのような素材ではなく、主に合成繊維を利用してきた。その中にはやがてマイクロプラスチックとして海洋に流出するプラスチックも含まれている。
この問題に対処するために動き出しているのがアイウェアメーカーのVavaだ。Vavaがタッグを組んだのは、日本が誇る世界的建築家・隈研吾。このタッグが開発したエコな3Dプリントアイウェアの製造技術が、今、注目を集めている。
Vavaと隈研吾の取り組み
まずVavaのアイウェアの特徴は素材だ。インドの農場で栽培されたトウゴマからサングラスを生成することで、プラスチックへの依存を回避している。生分解性のレンズは、廃棄された時にも自然に分解されるため、リスクが少ない。
Image courtesy of VAVA
さらに、製品開発において余った材料からヒマシ油を抽出し、それを製造施設の3Dプリンターの燃料に使用している。まさに循環型。素材ロスを可能な限り削減した製造工程が練られているのだ。
また使用するトウゴマの農場にも介入し、畑全体の土壌を活性化することで、自然に害虫被害に抵抗、農薬使用も制限している。いわゆるアグロエコロジー(agroecology:生産性や効率が高く、生物多様性に富み、資源循環型で、農薬や化学肥料に依存せず、変化に強く、地域の資源を活用し、高度に相互補完的で統合的システムのこと。農薬や化学肥料などの外部資材がなくても、種同士の相互作用のみでシステムが機能するような生態構造を構築することを目指す。)にも意識的で、持続可能な農法の実践により、淡水源も確保。雨水貯蓄システムも設置することで、水の搾取も抑制している。
Image courtesy of VAVA.
3Dプリンターが実現する本当のサステナビリティ
Vavaの製造過程で3Dプリンターが用いられていることもまた環境への配慮となる。まず3Dプリンターを使うことで、リアルタイムの需要に応じて商品を製造することができるため、無駄を制限できる。さらに、3Dプリンターは人間にとっては扱いが難しい小型の素材でも使用できるため、そうした素材を使うことで、従来の化石燃料由来のエネルギーへの依存を減らすことができる。ひいては温室効果ガスの排出量削減にも貢献できる。
プロジェクトに取り組んでいる隈研吾は、このプロジェクトにおいて「生産で環境をサポートすること」を重視しているという。デザインは隈研吾らしいミニマルに洗練されたもので、先鋭的でありながら普遍性を感じさせてくれる。
Image courtesy of VAVA
素材、製造過程、循環構造、そしてそれが投影されたデザイン。Vavaと隈研吾の試みは、ファッション界にどのような波紋を呼ぶことになるのだろうか。
そして、3Dプリンターがこの大きな流れにおいて果たす役割も見逃すことができない。本当の意味での持続可能性とは何か。常に問い続ける必要がありそうだ。