3Dプリンターはあと数十年内に死滅すると言われているサンゴ礁を救うことができるか

3Dプリンターはあと数十年内に死滅すると言われているサンゴ礁を救うことができるか

 

サンゴの死滅は人類の終焉を意味する?

 

あの静的な見た目ゆえに一般に植物だと誤認されがちだがサンゴとは動物である。つまり、サンゴは生きている。今年の夏も日本の海で「サンゴ礁の白化」が話題となっていたが、この「白化」とはサンゴにとっての死を意味する。今、世界中の海でサンゴが死に絶えていっているということについては、海洋研究者らによってずっと指摘されてきたことだ。

サンゴが死ぬことによって生じる最大の問題とは何か。それは気候変動だ。サンゴは進化論学者のリン・マーギュリスによって「ホロビオント」と造語されたような生態系をその身体の周りに形成することで知られている。サンゴは一般にカラフルなイメージを持たれているが、あの極彩色のボディは実はサンゴそのものではなく、サンゴに棲みついている褐虫藻と呼ばれる海洋プランクトンが発する色なのだ。

そして、この褐虫藻は海洋内において酸素を作り出す存在として知られている。褐虫藻はサンゴに棲みつくことで生きることができ、またサンゴもまた褐虫藻から送り込まれる栄養で生き永らえることができることから、彼らの関係はシンビオシス(共生関係)とも呼ばれている。さらに、そうした複数の種があたかも一つの生物として存在しているかのように見える様子が「ホロビオント」と呼ばれているというわけなのだ。

しかし、気候変動などに伴う海水温上昇などの環境ストレスを受けると、サンゴは自身に棲みついている褐虫藻らを追い出してしまう。これは褐虫藻にとってのみならずサンゴにとっても致命的な振る舞いだ。こうしてサンゴが死に褐虫藻が海中から減少すると、生産される酸素が減少し、それが海水温のさらなる上昇を引き起こす。その水温上昇がさらにサンゴにストレスを与え、どんどんサンゴが死に絶えていってしまうというのだから、これは完全に負のスパイラルだろう。

 



とりわけ話題となったのは2015年から2016年にかけての記録的な海水温の上昇によって世界遺産であるグレートバリアリーフの90%を超えるサンゴが白化するという壊滅的な被害が報告されたことだ。このペースでサンゴの白化が進めば数十年後には世界のサンゴ礁は完全に消滅してしまうとも言われている。そしてそれは人間が現在のように快適に暮らすことのできる地球環境の終焉をも意味しているのだ。

 

 

3Dプリンターを駆使して過酷な環境でも生存可能な新種のサンゴを

 

こうした状況をどうにか変えなければならない。そのためにも現在、世界中の研究者たちがサンゴ礁の再生のための研究を続けている。しかし、どうすればいいのか。注目を集めているのが新種のサンゴをラボで育てて、海洋に新たなホロビオントを形成するという方法だ。

たとえば、米国海洋大気協会(NOAA)の科学者たちは、Formlabsの3Dプリンターを使用して、海洋の変化する条件によりよく耐えることができるような回復力を備えた新種のサンゴを育成している。NOAAのチームは革新的な方法を利用して、野生のサンゴを調査し、制御されたラボ環境で特定の条件を再現、それによって新種のサンゴを育成し、それらを海に放つことで多くの生物たちが住まう「海の生息地」を回復しようとしている。

これは野生生物の保護のために彼らの生息地である森林を再生するというのと同じ発想だ。先述したようにサンゴはプランクトンや魚を始めとするその他の海洋生物にとっての貴重な生息地である。新種のサンゴとはつまり、こうした多くの海洋生物たちから失われた「家」を、あらためて建設する試みだと言えるだろう。

実際にNOAAが行なっているのは、より極端な海洋環境で繁栄するサンゴの特徴を特定するために、火山噴火口の近くなど、より酸性化した海で現在繁栄しているサンゴを探査し、彼らの特性をサンプリングすることで、現在の海水温においても生存可能なサンゴを育成することだ。その際、探査や育成に使用する多くのマシンのパーツは3Dプリント製だという。これらのパーツは過酷な海洋条件に耐える防水部品でなければならず、通常の製造方法だととても費用がかかってしまうというが、3Dプリンターを用いることでおよそ1/5程度まで費用を抑えることができるそうだ。

 

画像:NOAA/AOML

 

また、NOAAの他にも注目すべき研究は多い。たとえばカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD) のナノ工学科の海洋生物学者Daniel Wangpraseurtによって行われている研究では、より直接的に3Dプリンターが活躍している。彼らはバイオプリンティング技術を使用し、バイオニック3Dプリントされたサンゴを開発している。これらの3Dプリントサンゴもまた海洋生物たちの新たな「家」つくりを目指されて行われているものだ。

 

Daniel Wangpraseurtによってバイオニック3Dプリントされたサンゴ

 

サンゴ礁を再生して孫世代においても人類が生存することのできる地球環境を

 

もちろん、これはそれほど簡単なことではない。様々な研究チームの努力にも関わらず、まだ将来についての希望的観測を行えるほどの大きな状況の改善は見られておらず、世界中のサンゴ礁(並びにホロビオント)は減少の一途を辿っている。


繰り返すようにこれは決して他人事ではなく、サンゴ礁の命運は、私たちが暮らす世界において生じている「気候変動」の行く末にも直接関わる問題であって、「ああ、サンゴがなくなっちゃうのか」なんて悠長に構えていられる問題ではないことを忘れてはならない。

今後、私たちがサンゴ礁を再生し、私たちの孫世代においても人類が生存することのできる地球環境を維持することができるかは、3Dプリント技術にかかっているのかもしれない。