
ハーバード大学が開発した水面張力を用いたナノ3Dプリンター|驚くべきイノベーションだと話題に
水面張力を利用してナノ構造を3Dプリント
ハーバード大学のエンジニアと研究チームが開発したあるマシンが話題になっている。
そのマシンは水の表面張力を利用して微細な物体をつかんで操作するマシンとのことで、ナノスケールの構造物を製造する上で今後、極めて強力なツールになっていくだろうと目されている。
「私たちの研究は、微細構造およびナノ構造の材料を製造するための潜在的に安価な方法を提供します」
そう語るのは研究チームの教授であるVinothan Manoharan。
「レーザーピンセットのような他のマイクロマニピュレーション方法とは異なり、私たちの機械は簡単に作ることができます。多くの公共図書館で見られるような、水タンクと3D プリンターを使用しています」
このマシンは、3Dプリントされたプラスチック製の長方形からなり、昔のスーパーファミコンのカートリッジとほぼ同じ大きさとなっている。デバイスの内部には交差するチャネルが刻まれていて、各水路に広い部分と狭い部分が設けられている。水路の壁は親水性で、水を引き付けるようになっている。
果たして、なぜこのデバイスがナノ構造を3Dプリントするのに役立つのだろうか。その鍵となるのが「水面張力」なのだ。
水流とフロートの運動を使って繊維を編む
研究チームは一連のシミュレーションと実験を通じて、このデバイスを水中に沈め、ミリサイズのプラスチックフロート(浮き具)をチャネルに配置することで、水の表面張力によって壁がフロートを反発することを発見した。
フロートが水路の狭い部分にあった場合は、フロートは壁からできるだけ離れて浮くことができる広い部分に移動していく。水路の広い部分に入ると、フロートは中央に閉じ込められ、壁とフロートの間の反発力によって所定の位置に保持される。デバイスが水から持ち上げられると、チャネルの形状が変化するにつれて反発力が変化する。フロートが最初に広い水路にあった場合、水位が下がると狭い水路にいることに気づき、より広い場所を見つけるために左または右に移動する必要がある。
今回、利用したのは、この水流とフロートの運動だ。研究チームはフロートに微細な繊維を取り付けた。そうすることで、水位が変化し、フロートが水路内で左右に移動すると、繊維が互いに絡み合うことになる。かくして、研究チームは一連のチャネルを設計してフロートを編組パターンで動かすことによって、合成素材ケブラーのマイクロメートルスケールの繊維を編むことに成功した。
さらに研究チームはこれをナノレベルで行うための機械を構築した。つまり、サイズが10マイクロメートルのコロイド粒子を捕捉して移動できる機械だ。
「それで試してみたところ、うまくいきました。表面張力の驚くべき点は、手に収まるほど大きな機械でも、小さな物体をつかむのに十分なほど穏やかな力を生み出すことです」
これらの研究は「毛細管力を使用して微細な物体を操作する3Dプリントマシン」として論文化され、科学雑誌『Nature』に掲載、現在大きな反響を呼んでいる。
もちろん、まだ研究途上だ。目下、研究チームは、高周波導体を作ることを目標に、多くのファイバーを同時に操作できるデバイスを設計することを目指している。
水の表面張力が切り開いたナノ3Dプリント技術の新しい可能性。今後の展開に期待だ。