シリカナノ粒子によって自由自在な3Dガラスプリントが現実のものに──開発者いわく「この技術は高級時計や香水のボトルなどに使用できる」
3Dガラスプリントが難しい幾つかの理由
3Dプリンターが扱える素材は様々だ。フィラメント、レジンなどのプラスチックを代表に、金属、砂、あるいはバイオ3Dプリンターにおいては有機物なども、現在では造形の素材となる。
そんな中、私たちの暮らしにおいて身近な物質でありながら、これまで3Dプリンターがそれを扱うことを不得手としてきた素材がある。それは他でもない「ガラス」だ。
ガラスの扱いが難しいのは、その融点の高さゆえだと言われている。高温度下においては機械的な特性を維持するのが難しいため、一度に積層できる量が限られ、また焼結後に歪みが生まれてしまうなど、課題が多かったのだ。
実際、これまでにも3Dガラスプリンターは存在しなかったわけではないが、透明度や造形物の精度には問題点も多く、まだ実用的な段階には至っていなかった。
そんな3Dガラスプリントの世界において、まず大きく話題になったのが、2017年にMIT Media Labのネリ・オックスマン教授が率いる研究チームが開発した3Dプリンター「G3DP2」だ。ミラノデザインウィーク2017に同研究チームが制作して展示された、高さ3mの3Dプリントガラス柱「Lexus」は、デザインの複雑さ、正確性、強度、透明性において、大きく話題となった。
この「Lexus」は、しかし、構造はシンプルだ。「G3DP2」は強度のあるガラスを3Dプリントすることできたものの、やはりより複雑な形状のガラスを出力することは難しく、また出力に際してかかる時間と手間は膨大だ。ここには積層型の3Dプリンターによるガラス造形の限界がある。やはり、小さくて細かいガラス作品を3Dプリンターでスムーズに出力することは不可能なのだろうか。
「Lexus」から4年、この難問を乗り越えるかもしれない研究論文が、先日、The Optical Societyジャーナルに発表された。
シリカナノ粒子を使用したレーザー投射型3Dプリンター
論文を発表したのは、フランスのエコール・サントラルに所属する3人の研究者だった。彼らはその論文において、多光子重合に基づく新たに開発された技術を3Dプリンターにおいて使用することで、通常の層ごとの加工に依存することなく精密なガラスオブジェクトをプリントし、将来的にはレーザーベースの複雑な光学系を3 Dプリントすることができるようになる、と論じている。
この新しい技術においては、これまでの積層方式ではなく、レーザービームによる造形が行われているという。この際、使用されるのがシリカナノ粒子を充填した透明レジンである。どうやら、それによって、造形時の変形を防ぎ、またサポート材を使用しない短時間での造形が可能になるのだそうだ。
研究チームのGallais氏によれば、「このアプローチは、ほとんどすべてのタイプの3 Dガラスオブジェクトを生成するために使用できる可能性がある。たとえば、高級時計や香水のボトルなどに使用できるガラス部品の製造などだ」と述べており、同技術の一般化が、ガラス素材のオブジェクト一般の3Dプリントを容易にしていく可能性を示唆している。
個人がガラス工芸やガラスのフィギュア、あるいはグラスやコップなどを、自由自在にデジタル造形し、3Dプリンターで出力することができるようになったら、「ものつくり」の可能性が大いに広がるだろうことは間違いない。