光学レンズ分野を刷新する3Dプリンター|最も適しているのはインクジェット3Dプリント
光学レンズ製造を刷新する3Dプリント技術
現在、3Dプリンターの光学レンズ分野での活用の研究が進められている。
これはかつては不可能だった光学部品全体を一度に、かつ一つの小さな粒子としてプリントするという試みだ。これにより、複数の機能を一つのレンズ内で組み合わせたり、光学系、マウント(土台)、バッフル(光を遮る筒状のリング)を一緒に作成して、システムを事前調整する設計が可能になると言われており、またこの3Dプリンターを用いた新しい光学設計は、製品の設置面積を削減し、技術的性能を向上させ、商業規模の拡大を容易にするだろうと言われている。
たとえば最近では、オーストラリアとドイツの研究者が最近、レンズインレンズ設計で高開口数と低開口数の要件を同時に満たす単一の直径330μmレンズを3Dプリントすることに成功した。
これは従来の方法では決して製造することができなかったレンズだ。しかし、このレンズによって一体何が可能になったというのか。曰く「直径0.52mmのプローブで蛍光トモグラフィーと光コヒーレンストモグラフィーの両方が可能になった」とのこと。専門用語が並んでいるため、一般人には理解が難しいが、結論から記せば、このレンズによって従来の光ファイバー設計のレンズと比較して蛍光コントラストが10倍以上改善されたということらしい。
向上するのは性能だけではない。光学レンズの製造に3Dプリンターを用いることで、製造にかかる時間を大幅に節約し、取り付けエラーを最小限に抑えることもできるようになると言われている。こうした3Dプリント光学レンズの発達により主に恩恵を受けることになるのは、医療アプリケーションやスマートフォンなどの分野だと言われており、いずれも私たちの暮らしの安全や快適さに直結する分野だ。
ただ、現状では光学部品の3Dプリントにはまだ課題もあると言われている。光学関連材料の入手が限られていること、光学系は一般に製造速度が遅いこと、そして大量生産の場合は高コストになってしまうことなどだ。
ソリューションを生み出す研究開発
業界、そして研究者は、今まさに一連の3Dプリント技術を使用してこれらの問題解決に取り組んでいる。たとえばライス大学のTomasz Tkaczyk教授は、光学系3Dプリントを行う上で、FDM、インクジェット3Dプリント、ステレオリソグラフィー、および2光子重合の3Dプリントのどの方法が、機能と性能レベルにおいて適しているかを概説している。
Tomasz Tkaczyk教授によれば、FDMモデルが最も短時間で最大の体積構造を出力できることが分かったが、一方でその表面は粗いものになってしまう。これは光学性能に直接的な影響が出てしまう。一方で2光子重合では出力時間は非常にかかるものの、最も微細な形状を正確に出力できることが分かったという。他方、インクジェット3Dプリントやステレオソリグラフィーは、ちょうどその両者の中間くらいに位置付けられるようだ。なんでもインクジェットの方がやや微細な形状の滑らかさで上回ることも分かったらしく、バランスを考えるとインクジェットが最も適していると言えるかもしれない。
実際、Luxexcel社は、インクジェット印刷とそれに続くポリマーのUV硬化を使用して、3Dプリントされた光学レンズを作成している。同社は、度付きレンズを使用したスマートアイウェアを構築するソリューションで2022 Prism Awardを受賞した。
その他、この分野のスタートアップとして知られるNanoVoxもまたインクジェット3Dプリントを採用し、さらに同社独自の「ひねり」を加えることで、光学レンズを製造している。同社はポリマーを直接プリントするのではなく、ポリマーを構成する最小単位であるモノマーに光を彫刻するナノ粒子を注入したものを使用している。
改良されたインクジェット技術によって、 10 mm f/4 勾配屈折率 (GRIN) レンズなどの 3Dプリント平面レンズアレイが可能になる/NanoVox
ここら辺は非常に専門的な話になってしまうが、NanoVoxのこの技術によって、従来、8〜9個のレンズを使用する必要があったスマートフォンのカメラを、4個のレンズで製造できるようになるという。各種メーカーにとっては大幅なコストの削減になるだろう。
VR/ARゴーグル製造へのポテンシャル
もう1つの注目すべきスタートアップは、プリントメーカーNanoscribeの2光子重合システムを使用する Printoptixだ。Printoptixは現在、3Dプリントおよびプロトタイピングサービスを販売するサービス ビューローだが、同社の技術は光学処理を加速するポテンシャルを持っていると言われている。
Nanoscribe2光子重合 3D プリンターで作成された直径1.1mmのレンズシステム/Printoptix GmbH
同社のマネージングディレクターは、目の間の距離は人によって異なり、この間隔を一致させることが、スマートグラスやゴーグルのより高いAR/VRパフォーマンスにとって重要であると指摘している。グラスやゴーグルの3Dプリント化は、パーソナライズを迅速に実現する方法であり、おそらく最終的には追加費用なしでこのパーソナライズが実現できるという。
さて、以上は現在進められている研究、開発のほんの氷山の一角だが、光学レンズ分野の今後において3Dプリント技術がいかに重要な役割を担っていくかは理解していただけたのではないだろうか。メガネ、ゴーグル、カメラ、医療機器。私たちの日常の様々な場面でこれらの技術が用いられている。あるいは今後、ARやVRが一般化していく上では、3Dプリント光学レンズを用いたVRゴーグルが欠かせないかもしれない。あらためて3Dプリント技術が秘めている可能性に驚かざるを得ない。
参考記事:3D Printing Creates New Optical Possibilities/PHOTONICS MEDIA
https://www.photonics.com/Articles/3D_Printing_Creates_New_Optical_Possibilities/a68317