住宅マーケットに価格破壊を引き起こす日本発の最先端3Dプリント住宅「Sphere」とは? セレンディクスパートナーズCOO・飯田國大さんインタビュー
住宅建築業界に「価格破壊」をもたらす
先日、公開した記事「3Dプリンターで340平方メートルの家をたった24時間で出力――建築業界を革新する最先端技術」でも紹介したように、現在、世界では様々な3Dプリント住宅の建築が試みられている。背景には環境問題や貧困問題もあり、世界中の人々に安心して暮らせる住居をあまねく提供するためにも、3Dプリント住宅建築技術の開発と発展が望まれているのだ。
しかし、日本はこの分野において、これまでに目立った動きがなかった。そんな中、日本初となる3Dプリント住宅建築プロジェクトを立ち上げたのが、無人で家を建設できることができる3Dプリンター技術「Sphere」を提供するスタートアップ「セレンディクスパートナーズ」だ。
この「Sphere」とは自然災害に強い球体型の家を3Dプリンターで24時間以内に創ることができるサービスで、同社はこの技術の開発と普及によって、住宅建築業界に「価格破壊」をもたらそうとしているという。「30坪300万円」。それが同社が掲げる次代の住宅の価格帯だ。
セレンディクスパートナーズのCOO・飯田國大さんに「Sphere」プロジェクトの展望を聞いた。
球形ドーム状の住宅イメージ(提供:セレンディクスパートナーズ)
現在の住宅建築が抱えている4つの課題
—セレンディクスパートナーズさんは日本初の3Dプリント住宅建築プロジェクトに取り組まれており、現在の住宅建築業界において「価格破壊」を起こすことで、住宅を自動車くらいの感覚で買い換えられる社会を作ることを目指されていると聞きました。その上で24時間で建築可能な世界最先端の家「Sphere」を発表しています。まずはセレンディクスパートナーズさんの成り立ちとこれまでの取り組みについてを教えてください。
飯田 実は弊社のCEOの小間は、セレンディクスパートナーズを立ち上げる前は、京都大学発EVベンチャーGLMの創業者として世界最先端のEV車(電気自動車)を創っていました。その後、GLMをEXITし、次は世界最先端の家を創ろうと立ち上げたのがセレンディクスパートナーズです。
2019年1月に小間と私との間で「世界最先端の家」の開発に関するMOUを締結しました。同年の12月には福岡県のベンチャーマーケットで初めてのプレゼンも行なっています。
「Sphere プロトタイプデザイン」(提供:セレンディクスパートナーズ)
—セレンディクスパートナーズさんは日本で初となる3Dプリント住宅建築をつくるプロジェクトを手がけられていますが、このタイミングで3Dプリント住宅建築に取り組もうと思われたのはなぜなんでしょうか?
飯田 その背景には私たちが現在の住宅建築が抱えていると考えている4つの課題があります。
まず一つ目の課題は「30年の住宅ローンを本当に払い続けられるだろのだろうか?」という問題です。住宅ローンの支払いは過去20年で平均的な完済年齢が5歳も上がり73歳と高齢化しています。これはつまり、現在日本の住宅ローンというのは60歳の定年からの13年後に完済されるのが一般的な形となっているということです。これは社会人となって以降の人生のほとんどの期間において住宅ローンの返済を続けていくということです。果たして、これが健康的な状態と言えるのか疑問があります。
二つ目の課題は「家の物流費と人件費が更なる上昇を始めている」という問題です。住宅建築のコストの半分は物流費です。カナダやヨーロッパから木材を船で運び、さらに港から加工場へ運び、そして施工現場には職人が平均3ヶ月間通います。大工の減少も深刻で日本建設業連合会によると、建設作業員の35%を55歳以上が占める一方、29歳以下は11%にとどまるそうです。このままいけば高齢化で人手不足が進み、建築コストの大幅な上昇が見込まれてしまいます。その時、今日のような形の住宅建築はあまりに高価なものとなってしまう可能性があるんです。
三つ目の課題は「環境破壊による自然災害の甚大化が起きている」という問題です。首都圏直下型地震(南海トラフ地震)の懸念や九州地方を襲った水害、そして各地における台風被害など、近年、自然災害による被害が甚大化しています。現在の日本の住宅は風速60メートルに耐えるように設計されていますが、将来は風速100メートル級の台風の発生も予測されています。こうした災害にも耐えうる住宅建築が求められているのです。
そして、4つ目の課題は「住宅資産500兆円の損失」という問題です。実は日本ではこの50年間で500兆円もの莫大な住宅資産が消えているんです。過去50年で日本は住宅に累計860兆円の投資を行ってきましたが、現在の日本の住宅総資産は340兆円。つまり、住宅資産の70%が減少しています。損失額は500兆円にも上っています。
このように住宅建築をめぐっては様々な課題があり、そうした課題を乗り越えていく上では従来の建築方法では困難です。私たちは3Dプリント住宅建築技術の開発と普及がそれらの課題のソリューションとなると考えています。
「住宅を再発明」し「住宅ローンを世界からなくす」
—弊社メディアでも3Dプリント住宅建築のニュースはこれまでも取り上げてきました。様々な技術が各国で開発されていますが、セレンディクスパートナーズさんは、そうした中でも独自性の強い技術開発を行われていると聞いています。
飯田 海外では複数の会社が3Dプリンターによる住宅開発を進めていますが、日本国内では3Dプリンターを活用した住宅開発プロジェクトを進めているのはまだ我々1社のみです。
また、弊社の独自性といたしましては、海外の3Dプリンターによる住宅メーカーは既存住宅の延長線上で開発を行っており、必ず施工時に鉄筋等の構造体を必要としているのに対し、我々は、住宅の形を球体にすることで構造体を必要としない球体の住宅開発を行っているという点です。
正面図のバリエーション(提供:セレンディクスパートナーズ)
建築デザインはアメリカNASAと火星移住プロジェクトを進めている世界的な建築家CLOUDS Architecture Office「曽野正之」が行っており、これは「Sphere プロトタイプデザイン」と呼ばれています。世界的に見ても先進的な取り組みと言えるでしょう。
「Sphereプロトタイプデザイン」(提供:セレンディクスパートナーズ)
—近未来的で美しいデザインですね。いずれは30坪で300万円で住宅を建築、提供することを目指されているとも聞きました。実現すれば、先ほど仰っていた四つの課題も解決しそうです。最後に、セレンディクスパートナーズさんの今後の展望についてをお聞かせください。
飯田 我々のビジョンは世界最先端の家を実現するため「住宅を再発明」し、「住宅ローンを世界からなくす」ことです。その目標を達成する上で、3Dプリント住宅建築は欠かせません。
具体的には2021年内に「Sphere」のプロトタイプ(10㎡)を完成させます。このプロトタイプは災害復興住宅や別荘などの用途を考えています。そして、2022年には一般住宅用「Sphere」(100㎡)のプロトタイプを完成させる予定です。「Sphere」は2025年に開催予定の大阪・関西万博に向けて提案しています。
住宅建築の世界のマーケットにおいて日本はたった2%しかシェアがありません。我々は海外のマーケットも視野にいれ、海外でのピッチ資料作成や英語でのピッチの研修も行なっているところです。今年 1 月に、福岡市主催 Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA2020 に採択され3月には米国のピッチイベントでの登壇も決定しました。その目標実現に向け、追い風になっていますね。
「Sphere プロトタイプデザイン」(提供:セレンディクスパートナーズ)
—日本中、いや世界中に「Sphere」が建ち並ぶ時代を楽しみにしています。ありがとうございました。
セレンディクスパートナーズ https://misawa.house/