
MIT、電子部品なしで“動く印刷”を実現!FabObscuraが3Dプリントにも拡張
アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、電子部品を一切使わずに、静止した物体をアニメーションのように動かす新しい技術「FabObscura(ファブオブスキュラ)」を発表し、話題になっています。
開発したのはMITの CSAIL(Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory/コンピュータ科学・人工知能研究所)。
このツールを使えば、誰でも紙やプラスチックシートを使って“動く”デザインを作り出すことができるとのこと。それを可能にしたのが、いわく「古くて新しい技法」です。
仕組みは「スキャニメーション」― 古くて新しいアニメーション技法
FabObscuraが採用しているのは、「バリアグリッドアニメーション(Barrier-Grid Animation)」という仕組み。
日本では「スキャニメーション」として知られ、19世紀から存在する光学トリックの一種です。
縞模様のシートを画像の上でスライドさせると、絵が動いて見える――という、あの不思議な視覚効果。子どもの頃に本のページで見たことがある人も多いのではないでしょうか。
ただ、この技術においては、これまでは手作業で制作する必要があり、多くの時間がかかるうえに直線パターンしか使えないという制約もありました。この制約を突破する鍵となったのが、コンピューテショナル・デザインでした。
数学×デザインで誰でも簡単に
FabObscuraは、この古典的技法にコンピューテーショナル・デザイン(計算的設計)の力を導入。
ユーザーは短いアニメーションをアップロードし、ツール上で波線・ジグザグ・スパイラルなど、さまざまなパターンを数式で自動生成できます。
MIT博士課程の ティチャ・セサパクディ氏(Ticha Sethapakdi) によれば「FabObscuraは、静的な画像を簡単に“動くアート”へ変えます。これまで手作業では難しかった表現を、数クリックで体験できます」とのこと。
さらに、完成したデザインはそのままプリント出力可能。紙や透明シートに印刷して、絵やパッケージ、コースターなどに貼るだけで、平面が一瞬で動くディスプレイに早変わり。こうして「時代遅れの技術」に再び日の目が当たることになったんです。
コーヒーがカクテルに変わる!? 日用品が“動く”サンプル作品
研究チームは、さまざまな試作で可能性を実証しています。以下はそのいくつかの実証例。
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コースター:押す角度によってコーヒーカップがマティーニグラスに変化
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瓶のフタ:回すとヒマワリが開花するアニメーション
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時計の文字盤:秒針の動きに合わせてネズミが走り回る
さらに、複数のアニメーションを重ね合わせる「ネスト構造」にも対応しており、たとえば、シートを動かす方向によって車がバイクに変形するといった、まるで「物理的UI(ユーザーインターフェイス)」のような表現も可能とのこと。
こうなると色んなことを試してみたくなりますが、もちろん注意点と制約もあります。
注意点と制約
現時点では、アニメーションが複雑すぎるとぼやけて見える場合があります。そのため、基本的にはシンプルでコントラストの強いデザインが推奨されています。
それでもFabObscuraは、これまで時間と費用がかかっていた「動く印刷物」を誰でも簡単に作れる点で大きな前進と言えることは間違いありません。
研究チームもまた「バリアグリッドアニメーションを計算的に定義したことで、この古典技法を新たなインタラクティブ表現として再発見できた」と手応えを示しており、この技術がまだまだ発展可能性を持つことを示唆しています。
3Dプリントの未来に広がる可能性
現在FabObscuraは主に平面印刷向けに設計されていますが、チームはすでに3Dプリンティングとの連携を視野に入れているそうです。
この仕組みを3D造形プロセスに取り込めば、モーターや電子機器なしで動きを持つ立体物を作ることが可能になります。
たとえば――角度によって表情を変えるおもちゃ、であったり、見る方向でメッセージを切り替えるパッケージ、といった“動く3Dプリント”が実現する日も遠くないかもしれません。
さらに、曲面や複雑な形状にも組み込めるようになれば、紙では不可能だった立体的なアニメーションも可能になります。これこそが、研究チームが目指す「素材・形状・スケールを超えた動的デザイン」の姿。3Dプリントファンにとっても、実現すれば画期的なイノベーションになるはずです。
現状では、2025年9月に韓国・釜山で開催された ACM UIST(User Interface Software and Technology)国際会議 にて研究成果が発表されたばかり。今後、この技術がどう応用されていくのか楽しみに待ちたいところです。
参照:https://vis.csail.mit.edu/pubs/fabobscura/