3Dプリンターが明らかにする生物の進化——3Dプリント技術は未来だけではなく過去をも照らす
3Dプリンターが生物の歴史を覆す?
様々な分野に役立てられている3Dプリント技術が、近年、生物学の分野においても活用されている。
中でも進化生物学などにおいて、太古に存在していたであろう生物の限られた痕跡、たとえば化石などを3Dスキャンし、その骨格を3Dプリントすることによって、あらためて生物の進化の歴史が紐解かれようとしているらしい。
昨年にはオハイオ大学のパトリック・オコーナー教授が率いる研究チームが、白亜紀後期に存在していたとされる長くて深いくちばしを持つ鳥(Falcatakelyと名付けられた)の化石の発見を報告しているのだが、この鳥、Falcatakelyが、現在、鳥類におけるくちばしの進化を紐解く上で、非常に重要な種であると注目されているのだ。
Falcatakely(画像引用:オハイオ大学)
太古の鳥の頭蓋骨を3Dプリントで再構築
オコーナー教授が率いる研究チームが試みているのは、Falcatakelyの解剖学的構造を解明するために、マイクロCTスキャンとデジタルモデリングを用いて、鳥が埋め込まれた岩から個々の骨を仮想的に解剖、さらに3Dプリンティングを用いてFalcatakelyの頭蓋骨を再構築し、他の種との比較を行うことだ。
そもそも、白亜紀の鳥類に関しては化石の発見も少なく、完全な骨が出てくることは少ないため、こうした仮想的な骨格の再現が研究を進める上で、非常に役立つらしい。
実際、3Dプリント頭蓋骨を通じた研究によって、このFalcatakelyが現在生きているいくつかの鳥グループと共通しているものの、その組織は全く異なるものであることが判明している。オコーナー教授によれば、この結果は科学者たちが鳥の進化に関して持っていたこれまでの知識とは符合しないそうで、つまり、これは鳥の進化の歴史を知る上で、なんらかの重要な発見に繋がるかもしれないとのことだ。
画像引用:オハイオ大学
恐竜や原人の研究に役立つ3Dプリント技術
こうしたアプローチは他でも行われており、たとえばオランダではこれまで発見されているトリケラトプスの化石の中で、いまだ発見されていない最後のピースを3Dプリンターを使って補完するということが試みられている。昨年には日本の研究チームもトリケラトプスの脳や神経などを三次元的に復元し大きさを計測することで、トリケラトプスの三半規管が他の動物に比べて発達しておらず、すると機敏に動くことが苦手だったのではないかとする論文を発表して話題となった。
もっと以前では日本の海部陽介の研究チームが、フローレス原人の正確なレプリカを3Dプリンターで出力することで、その脳のサイズを特定したこともある。さらに、そこから脳のサイズが身体の大きさに対して絶対的に重要ではないという、これまでの通説とは異なる研究が進んでいる。
画像引用:東京大学総合研究博物館
あるいは教育目的ということで言えば、現在、世界中の博物館が絶滅した恐竜や動物の骨格を3Dプリントしたものを展示し、公開している。
3Dプリンター技術というと、未来へ向かって何かを生み出す技術というイメージが強いが、そればかりではなく、実は過去を知る上でも大いに役立っているのだ。いつか3Dプリント技術によって生物の歴史が180度覆されるような発見だってあるかもしれない。そんな日が来ることを密かに期待している。