従来型と比較して速度は100倍以上、ボリュメトリクス3Dプリント技術「VAM」の現状と今後
原料液の中に突如としてオブジェクトが!未来の3Dプリント技術「VAM」とは?
以前も本ブログ欄で紹介した「ボリュメトリクス3Dプリント」という言葉をご記憶だろうか。
出力速度は従来型の数百倍!? 世界初のボリュメトリクス3Dプリンター「Xube」
https://skhonpo.com/blogs/blog/xube?_pos=1&_sid=a3822bb0c&_ss=r
あらためて解説すると、ボリュメトリクス3Dプリントとは、これまでの光造形(SLA)や熱溶解積層(FDM)といった方式とは異なるボリュメトリック積層造形(通称VAM)と呼ばれる方式を採用した3Dプリント技術のことだ。
このVAMとは、容器に入った液体前駆体の中で、光を用いて物体を素早く固化させる方法のこと。異なる波長の2本の光ビームを交差させて物体全体を固化させることで、オブジェクトを一気に造形する。
その技術の何が凄いかといえば、まずその造形速度だろう。少なく見積もって従来の数倍。たとえば、ドイツのベルリンを拠点とするxolo社が昨年発表した世界初となる市販型のボリュメトリクス3Dプリンター「The xube」では従来の3Dプリンターであれば約90分ほどかかる90mmのオブジェクトを、数秒から長くても5分で出力可能だと言われた。同時にこれまで速度とトレードオフにあると考えられてきた精度においても、従来の方式を大幅に上回ると言われている。
さらに注目されたのがVAMにおいてはサポート材もビルドプレートも必要としないという点だ。イメージとしては原料液の中に突如としてオブジェクトが現れ、浮き上がってくるような形になる。VAMはしばしば人気SF映画『スター・トレック』に登場するレプリケーターというマシンに喩えられているのだが、まさに近未来の最先端3Dプリント技術なのだ。
Vitro3Dがシード資金調達ラウンドで新たに130 万ドルを調達
そんなVAMではあるが、現状ではまだまだ発達途上。広く一般に普及するところまでには至っていない。そんな中、先日、ボリュメトリクス3Dプリント技術の開発研究を行う米国のVitro3Dが、シード資金調達ラウンドで新たに130 万ドルを調達したというニュースが流れた。これは現在急成長中のボリュメトリック3Dプリンティングの世界において、かなりホットなトピックだ。
Vitro3Dは、ボリュメトリクス3Dプリント技術は既存の3Dプリント技術よりも 100 倍高速であると主張している。現在、同社はレジンカートリッジを使用してより大きく、また高解像度で複雑なコンポーネントをプリントすることを目指している。これによりレジンの取り扱いが不要になるとのこと。今後は、利用可能な幅広い材料特性の開発と、最小限の後処理を必要とする部品の製造も同時に行っていくそうだ。
同社がまず注力しているのは、一般家庭向けの汎用3Dプリンターではなく、歯科用アライナー(マウスピース)の3Dプリントと、組織工学用の足場の3Dプリントだ。もちろん、これは入り口である。技術の発展とともにその用途は大幅に拡大していくはずだ。
歯科市場向けの部品を3D プリントするために使用される Vitro3Dのプロセスのレンダリング。画像:Vitro3D.
ボリュメトリクス3Dプリント技術は多くの可能性を秘めた急成長中の分野であり、ほとんどの場合はまだ研究段階にある。部品全体を一度に3Dプリントすることは極めて論理的だが、果たして現実世界でどのように機能していくかはまだ未知数の部分が多いのだ。しかし専門家たちは、これがSLAなどの既存の技術をやがて追い越していく可能性が非常に高いと考えている。
以前、本ブログ欄でも取材させて頂いたボリュメトリクス3Dプリンターを扱うxolo社のCEOであるDirk Radzinski氏によれば、市場開拓はステップバイステップで進んでいくだろうとのことだった。同社はxubeをはじめとするVAM3Dプリンターをすでに開発済みだが、それらは現状で研究目的以外には販売されていない。
「ボリュメトリクス3Dプリントは今後いくつかの市場を制覇するだろう」——世界を変える技術を開発する「xolo」のCEO・Dirk Radzinskiが語る
https://skhonpo.com/blogs/blog/volumedirk?_pos=2&_sid=a3822bb0c&_ss=r
とはいえ、にわかに役者は揃いつつある。おそらく数年内にまた大幅な進展があるだろうことは間違いない。果たして私たちが日常的にVAMでものつくりを行う日は訪れるのだろうか。今後の展開にますます期待したい。