圧倒的な熱耐性と機械的強度を誇るスーパーエンプラとは?|カスタム次第では一般向けFDM3Dプリンターでも使用可能?
スーパーエンプラとは何か?
3Dプリント市場において数年前から話題になっている言葉のひとつに「スーパーエンプラ」というものがある。
スーパーエンプラとはスーパーエンジニアリングプラスチックの略称であり、エンジニアリングプラスチック (エンプラ) の中でも特に優れた耐熱性を持つプラスチックのことだ。
一般的なプラスチックは熱に弱く、高温環境下での使用や摩擦熱などが発生する可能性のある部品のプリントには向いていない。また紫外線にも弱いため、屋外で長時間にわたって日光に晒してしまうと劣化してしまう場合がある。
スーパーエンプラはこうしたプラスチックの弱点を克服する新素材として登場した。
特にその耐熱性、耐久性の高さから工業部門において注目されており、金属部品の代替になることが期待されている。自動車のエンジン周辺の部品、あるいはバルブやポンプといった、これまでは金属でつくられることが一般的だった部品をスーパーエンプラで置き換えることが行われ始めている。
一般に150度以上の高温でも長時間使用可能であり機械的強度が高いことがスーパーエンプラの「スーパー」たる特徴として知られている。
3Dプリンターでスーパーエンプラを使用するには?
現在、スーパーエンプラに該当する素材にはいくつか種類がある。
最も代表的な素材は、続使用温度250℃で、高温でも高い機械強度を維持することが可能であり、また耐薬品性、耐熱水性、耐摩耗性にも優れていることで知られているポリエーテルエーテルケトン、通称「PEEK」だろう。その他、「URTEM」という商品名で知られ、電気・電子部品、自動車部品、機械部品、航空機部品、加熱調理用品などに主に用いられているポエーテルイミド(PEI)や、医療用、食品用など高い安全性を求められる分野をはじめ、電子・電気用途、水栓弁・ポンプ・フィルターなどでも活用されているポリフェニサルホン(PPSU)なども知られている。
以前はこれらのスーパーエンプラ素材を用いる場合は切削機などが必要だったが現在では3DプリンターでもこのPEEKを印刷できるようになった。
とはいえ、一般的な3Dプリンターでは温度設定がかなり違うため、PEEKをはじめとするスーパーエンプラを扱うことはできない。ただ最近ではスーパーエンプラの造形に適した高温ノズルを搭載したFDM方式の3Dプリンターも出始めている。
たとえば上海に拠点を置くグローバル企業「INTAMSYS」社のFUNMATシリーズだ。FUNMATはスーパーエンプラの使用を前提としたFDM方式(材料押出、熱溶解積層法)の3Dプリンターであり、スーパーエンプラの安定した造形はもちろん、今まで熱収縮の歪みなどで造形が難しかった、大型エンプラなども安定して造形できるという。
「INTAMSYS」社のFUNMAT
あるいは、3DプリントYouTuberである「ND-3D」は、一般の3Dプリンターをカスタムすることで、PEEKを印刷することにトライし、実際に成功可している。
なんでも改造費用は200ポンド未満とのこと(3万円程度!)。是非とも真似してみたいところだが、ハロゲンランプの制御が鍵であることまでは明かされているものの、ビルドの詳細は公開されていない。
ただ、すでにそうしたカスタムが成功しているということは、一般向け3DプリンターでPEEKをはじめとするスーパーエンプラを出力できる日が来ることもそう遠くはないということだ。これまでのフィラメントやレジンよりもはるかに耐熱性に優れ、またそのほかの性質においても圧倒的な強度を誇るスーパーエンプラが、3Dプリンターによるものつくりの幅を広げてくれることは間違いない。今後の展開に期待大だ。