ユスケル・テミズの魅惑的なストップモーションアニメ世界|3Dプリンターをクリエイティブに使いこなす
3Dプリンターをストップモーションアニメに活用
3Dプリンターを使ったクリエイションの可能性は無限大だ。
すでにこれまで多くの人が様々な形で3Dプリンターをものつくりに活かしてきた。実際、アートの世界においても3Dプリンターの活用は一般化している。一般向けに3Dプリンターが販売されるようになって10年。この新しいテクノロジーは確実にクリエイションの現場に浸透し、ものつくりの在り方を変え続けている。
そんな中、今回注目したいのは、ユスケル・テミズという人物。科学者である彼が余ったフィラメントを用いて制作しているのは「ストップモーションアニメ」だ。テミズがYouTube上で公開している、その作品と制作風景が、現在、大きく話題となっている。
(引用)Yuksel Temiz
そもそもストップモーションアニメとは、コマ撮りした立体物の写真を並列に再生することで、あたかも立体物が動いているかのように錯視させるアニメーションのことだ。とはいえ、実はあらゆる映像、あらゆるアニメーションもまた原理的には同じ構造を有している。それらと異なる点があるとすれば、ストップモーションアニメにおいては立体物をコマごとに手動で動かし、かつ造形を(必要とあれば舞台装置そのものを)変化させる必要があるということ。つまり、とりわけ「手間がかかる」という点だ。
その性質上、ストップモーションアニメの中で最も知られているのは「クレイアニメ」と呼ばれる粘土を用いたストップモーションだ。コマごとに立体物の形状を変化させる上で、粘土の可塑性は非常に頼もしい。あるいは粘土以外でも、ストップモーションアニメでは切り絵や砂、関節を持った人形など、造形や動作を変化させやすい素材がこれまで用いられてきた。
最近、ストップモーション関連で話題になったところで言えばホラー映画の巨匠アリ・アスター監督も絶賛したチリの映像作家たちによるクレイアニメ『オオカミの家』だろう。カラー粘土を巧みに使って表現された独特の恐怖世界。まだ未見の方は現在公開中なので是非とも劇場で体感してみてほしい。
3Dプリント技術がストップモーションアニメを変革する?
さて、話を戻そう。テミズが試みたのは、そんなストップモーションアニメの制作に3Dプリンターを用いることだった。そうすることには多くの利点がある。
先ほども書いたようにストップモーションアニメの撮影においてはコマごとに立体物を変形させていく必要があり、それゆえそれに適した粘土などの素材が多く用いられてきたのだった。その点、プラスチックは硬質だ。プラスチックのオブジェをコマごとに変化させるためには、そもそもいちから型取りをし直す必要がある。これは時間がかかって仕方がない。
しかし、3Dプリンターを用いれば、一つの3Dデータを微妙に変更し、それを出力するだけで事足りる。オブジェのサイズが小さければ、出力にかかる時間もさして長くはない。あるいは一つの造形物に可動関節を設けておくことで、立体物に動きをもたらすことだってできる。
こうして作られたのが以下の映像だ。
いかがだっただろうか。
実はテミズが3Dプリンターを用いたアニメーションを制作した理由は、彼の幼い息子のためだった。自分と子供の関心を結びつけ、遊びをよりクリエイティブにすること。父と息子が3Dプリンタを使って協力してストップモーションアニメを創作する、というのは実に微笑ましい。
あるいはそうした目的のためだけではなく、3Dプリンターの活用がストップモーションアニメの世界を更新する可能性もあるだろう。テミズのアニメにおけるプラスチックの質感はクレイアニメの粘土とはまた異なるものだ。興味と根気のある方は、是非とも自作の3Dプリントストップモーションアニメ創作にトライしてみてはいかがだろうか。