
国際的3Dプリントメディアが「家ではなくお金を3Dプリントしよう」と提言。その真意とは?
3Dプリント住宅の世界が盛り上がっている一方で
当ブログ欄でも繰り返し紹介してきたように、現在、3Dプリント住宅が世界中に広がり始めている。すでに3Dプリント建築による住宅街のプロジェクトも複数始動しており、あと10年もすれば、誰もが一般的に3Dプリント住宅を目にする時代になることは間違いなさそうに見える。
そんな中、そうした状況に冷や水を浴びせるような話もある。これは世界的3Dプリントメディア「3DPRINT.COM」が先日公開したある記事の話だ。記事のタイトルは「家ではなくお金を3Dプリントしよう」。なんとも扇情的なタイトルだ。
記事はまず、3Dプリント住宅のメリットについて伝えている。主なメリットとして挙げられているのが、住宅危機の解決、人件費やコストの削減、建築時間の短縮などだ。
確かに先日世界的にも報道されたように、ついに地球人口は80億人を突破してしまった。これだけの数の人口が設備の整った住宅で暮らしていく上では、より安く、より早く、住宅を建築するための技術が不可欠だ。その上で3Dプリント建築はその最も効果的なソリューションとなるだろう。
ただ、一方で記事は、3Dプリント住宅のメリットを認めつつも、このように続いていく。
「ただし、これらが大きな影響を与えるのは、建築家が3Dプリントされた建物の設計を開始してからなのだ」
一体どういうことだろうか。
3Dプリント住宅建築はビジネスとして「おいしくない」
「建物の設計を開始してから」という発言にもあるように、記事で問題にされているのは、建物の設計を開始する前段階の話だ。
一般的に、建築に関する規制や、実際に施工に当たる建設会社というのは、きわめてローカルである。つまり、建築に関わる様々なルールは地域ごとに異なり、実際に建築にあたる会社、およびその会社が有している技術のレベルも地域ごとに異なる。したがって「あらゆる設計またはプロジェクトは、開発者やクライアントとの会議と同様に、多くの規制上のトラブルを経験することになる」と記事は指摘するのだ。
確かに、実際に3Dプリント建築がスタートすれば、これは大きな価値がある。だが、そのスタートまでに非常に時間がかかってしまう。これは端的にビジネスとしては「あまりおいしく」ない。
そこで記事が提案しているのが、住宅以外ですぐに3Dプリント業界に利益をもたらす可能性がある場面でより積極的に3Dプリント建築技術、とりわけセメントを素材とする3Dプリント技術を用いていくというプランだ。
記事では具体的に以下のようなリストが紹介されている。
通行用バリア、ブロック、装飾品、遮音壁、対テロシールド、タンク トラップ、セキュリティブロック、バンカー、シェルター、セキュリティ ハット、およびその他の安全/防御構造、ボラード、壁やフェンスを支えるポール、部屋の間仕切り、小さな歩道橋、車橋、陸橋、トンネル用の複雑な型枠、厩舎、サイロ、牛/家畜/野生動物用格子、およびその他の農業用小型構造物、トイレを含むトイレ構造物、庭の家、庭とレストランの彫像、噴水、プランター、装飾用の偽の石、 ベンチ、階段と床、浄化槽、パイプ、排水管、サンプ、およびその他の廃棄物管理要素、暗渠、パイプライン、パイプライン サポート コンポーネント、倉庫、車庫、パイロン、フーチング、柱、ファサード、ジョイスト、その他の建築要素、鉄道枕木、護岸、etc。
つまり、住宅など建築そのものではなく、建築に付随する各種パーツや部分、また市街におけるインフラストラクチャーに付随するパーツなどだ。
記事はこれらのオブジェクトの1立方センチメートルあたりの価値が住宅に比較して高いという点を指摘している。つまり、3Dプリント時間1分あたりで生み出すことができる価値がより大きいということだ。
また、住宅と異なり、それらは住宅のように野外でではなく、保護された屋内環境において3Dプリントすることができる。温度や湿度や天気などの変数に左右されない点でも、品質管理がしやすいという点も指摘されている。
潜在的な収益は数十億ドル
実際、3Dプリント技術であれば上記のリストにあるものはほぼ自動で作成できる。
従来なら、これらの作成には数週間がかかっていたところ、3Dプリンターであれば早ければ数時間、長くてもせいぜい数日間で作成が可能なのだ。また、こうしたオブジェクトの在庫を維持するためにかかるコストも削減できる。トレンドの変化や需要に応じて、デザインを迅速に更新することも可能だ。あるいはその場に応じたカスタマイズにも対応しやすい。要するに、すでにある市場のニーズにすぐい応じることが可能なのだ。
記事はこうしたオブジェクトを3Dプリントが請け負っていくことで想定される潜在的な収益は数十億ドルにのぼるだろうとしている。現状ではまだ一部の企業しか、こうした領域への3Dプリント技術の応用を検討していないという。つまり、これは3Dプリント住宅を建設する以上のビジネスチャンスということだ。
果たして、記事はこのように締めくくられている。
「まとめると、これらの要素を在庫なしで、より速く、より安価に、より少ない材料で製造できるという事実は、競争上の大きな優位性となる。住宅が未来において3Dプリント技術のエキサイティングな分野になる可能性は非常に高い。ただし、そうした“誇大宣伝”は別として、ACで数十億の収益を上げたい場合は、上記の項目に焦点を当てることが、私の考えでは、はるかにすぐに成功するものだろう」