
ハーバード大学がリアルな「鼓動」を模倣した3Dプリント心臓を開発
本物の心臓と同様に収縮する3Dプリント心臓
多分野において活躍の場を広げている3Dプリント技術だが、なかでも注目すべきは生物工学における3Dプリント技術の応用だ。
これまでも医療技術研究におけるバイオ3Dプリント技術の導入については多く記事にしてきたが、ハーバード大学ジョン.A.ポールソン工学応用科学大学院(SEAS) の主導によって現在行われている研究はとりわけ驚くべきものだ。
同チームが研究を進め、開発に成功したのは、人間の心臓の「鼓動」を模倣した構造を 3D プリントする新しい方法だ。なんでもプレハブゼラチン繊維に注入されたヒドロゲルを組み合わせた繊維注入ゲル (FIG) インクのおかげで、追加のサポート材料を必要とせずに心室の3Dモデルを正確に印刷することができるようになったという。
(画像引用)ハーバード大学ジョン.A.ポールソン工学応用科学大学院
「Nature Materials」に研究チームが発表した論文によると、この新しい方法においては3Dプリンティングプロセス中に、実際の心臓組織に見られるものと同様のパターンで心臓細胞(心筋細胞)が組織化されるのをプレハブゼラチン繊維がサポートするとのこと。その結果、3Dプリントされた心臓モデルは、電気の伝導や収縮の仕組みなどにおいて、本物の心臓と同様の特性を示すようになったそうだ。
(掲載論文)
Fibre-infused gel scaffolds guide cardiomyocyte alignment in 3D-printed ventricles
https://www.nature.com/articles/s41563-023-01611-3
心臓は私たちの命の根幹をなす臓器だが、いまだその複雑な構造を人工的に再現する技術は開発されていない。その開発は言うなれば「命の開発」に近い。今回の研究成果は、その悲願ともいうべき夢に向けた大きな前進である。
(画像引用) ハーバード大学ジョン.A.ポールソン工学応用科学大学院
ヒドロゲルにゼラチン繊維を加えることにより、チームはより詳細で正確な心臓モデルを作成することができるようになった。これは、医学研究、薬物試験、そしておそらく将来の治療に応用できる可能性がある。
研究チームによると、この方法にはまだ改善の余地があり、複数の細胞型の導入やより良く模倣した血管など、さらなる研究でその機能の強化を試みていく予定だという。今後の発展に期待だ。
(参照)
Fiber-infused ink enables 3D-printed heart muscle to beat/SEAS
https://seas.harvard.edu/news/2023/07/fiber-infused-ink-enables-3d-printed-heart-muscle-beat