エネルギー危機を3Dプリンターが救う? クレムソン大学がプロトン導電性セラミック燃料電池の3Dプリントに成功
化石燃料依存から脱却するためには
行楽の秋、長く続いた猛暑もようやく落ち着き始め、遠方へのレジャーや観光を計画されているという方も少なくないだろう。ただ、その上では気になることもある。燃料費の高騰だ。
普段から車に乗られる方ならつとにご存知の通り、現在ガソリン価格は非常な高騰ぶりを示している。原因とされているのはコロナ禍からの反動だ。経済活動が回復する中で、現在、原油の需要が世界的に高まっている。また円安の影響も大きい。原油の決済はドルで行われるため、円安になればなるほど原油価格は相対的に上がる。また、原油価格の上昇にあわせてドルを調達する量も増えるため、さらに円安が進行するという悪循環も起こっている。
こうもガソリン価格が高騰すると、いやでもエネルギー問題についてを考えざるを得なくなってくるというものだ。今回のガソリン価格の問題には上記したような背景があるとはいえ、元をたどれば、化石燃料依存型の暮らしに問題がある。そうした暮らしを見直す上で必要なこと、それは代替エネルギーの開発である。
すべての発電デバイスを超える発電効率75%を誇るPCFCとは?
様々な代替エネルギーが考案されている中で近年徐々に注目を集めているのがプロトン導電性セラミック燃料電池(PCFC)と呼ばれる電池だ。PCFCとは、セラミック電解質膜とそれを挟み込む空気極と燃料極の3層構造を有する、空気中の酸素と水素等の燃料を利用して発電する電池のこと。理論的には従来のすべての発電デバイスを超える発電効率75%を実現できる可能性を有していると言われ、期待されている。
エネルギー危機に一筋の光を差す、まさに夢のような電池、なのだが、一方でそれを実現するのは非常に難しいとも言われており、実験室レベルを超えて現実世界での導入は困難とされてきた。
その状況が変わりつつある。クレムソン大学先端材料研究所 (AMRL) のチームが、PCFCを管状の形状に 3Dプリントすることでこの問題を解決、その成果をACS Energy Lettersに発表した。
約5年以内に商用化も見込めると研究チーム
研究者チームは今回、燃料電池に必要なアノード、カソード、電解質の 3 つの層すべてを 3D プリントした。博士研究員で責任著者の Jianhua “Joshua” Tong 教授によると、これはこれまでに行われたことがなかったそうだ。研究チームは、燃料に水素を使用して 3D プリントした PCFC の 1 つを 200 時間テストし、安定して電力を生成したと報告ている。
クレルモン大学の研究チーム(https://news.clemson.edu/)
Tong教授の報告で注目すべき点は、教授がこれらの全てに関して「商用化が期待できる」と述べていることだろう。現状では1つのPCFCを印刷するのに約3時間かかるというが、将来的にはより高度な設計を開発する予定だという。Tong教授は、約5年以内に商業化される可能性があると述べている。これはエネルギー市場にとって極めて大きな影響をもたらすことになるはずだ。
(画像引用)ACS Publications
あるいは環境問題への貢献も期待できる。PCFCが普及した場合、CO2排出量の大幅削減が見込まれる。ガソリン価格の高騰は問題の一面に過ぎず、化石燃料依存からの脱却は人類の急務でもある。3DプリントPCFCの普及はそうした状況を少なからず変えてくれるはずだ。研究のさらなる発展に期待したい。