3Dプリンターがパラスポーツを躍進させる!「TOKYO 2020」で加速する人間と技術の融合
進化を続けるパラスポーツ
東京パラリンピック2020がいよいよ始まった。
今回はコロナ禍での開催、それも感染が拡大する中での開催ということもあり、その開催の是非については様々な意見、主張が飛び交っている。それらの主張全てに相応の説得力があり、簡単に判断することは難しい。ただ一つ言えることは、開催された限りはできるだけ安全に、そしてこの大会に思いを馳せてきた全ての参加者にとって、今大会が望ましい形で運営されていってほしい、ということだろう。
しかし、それにしてもパラリンピックの位置付けはここ十数年で大きく変わったように思う。かつてはまだパラリンピックはオリンピックの付随物という印象があった。オリンピックを楽しんだ後はパラリンピックも楽しもう。あくまでも、メインディッシュはオリンピックでパラリンピックはデザート。そういう風潮があったように記憶している。
それがどうだろう。いまやパラリンピックは「パラリンピックもすごいんだ」ではなく「パラリンピックがすごいんだ」と言われるまでになっている。今回のそれぞれの開会式の盛り上がり、パフォーマンスを見ても、正直、筆者などはパラリンピックの開会式の方がより面白いと感じた。競技そのものにおいても、「障害を持っている方もスポーツを頑張っている」というような庇護的な上から目線でまなざそうものなら現実とのギャップに圧倒されるに違いない。競技のレベルは非常に高い。そして、とにもかくにも大迫力なのだ。
パラスポーツが進化を続けてきた背景には、まず第一に競技者たちの不断の鍛錬がある。しかし、それだけではない。その裏にはパラスポーツを支える技術の進歩があった。
たとえば陸上競技用の車椅子。こちらは後輪がハの字に変化し、それにより走行中の安定性が高まったことで、競技のスピード感を向上させることになった。素材もアルミからカーボンファイバーへ。トップスピードもかつてとは段違いだ。
あるいは義足もまた進化している。まず車椅子同様に素材がカーボンファイバーになったことで脚、足首の自然な動きが再現されるようになった。さらに弾力が増したことも大きい。日々、向上するバネの力を推進力に、記録もまたグングンと伸びる一方だ。
実際、すでにオリンピック記録をパラアスリートが上回ることもめずらしくはなくなってきている。語弊を恐れずに言えば、それはもはやハンディキャップではなくアドバンテージとさえ言いえるかもしれない。さしずめ、人間と技術が融合したサイボーグの祭典。人間の可能性の拡張という点ではオリンピックさえをも凌ぐエキサイティングな祭典、それが現代のパラリンピックなのだ。
3Dプリンターが障害者のモビリティを向上する
さて、ここまでパラスポーツがいかに技術によって支えられてきているかを見てきたが、当然、競技者ではない一般の障害者の方々も、こうした技術の恩恵は受けている。そして、その際には3Dプリンターもまた、重要な役割を果たしているのだ。
たとえば、オランダを拠点とする3Dプリント企業Tractus3DがROAM Special Cyclesと共に開発を進めているのが、3Dプリントを使用した障害者用のカスタマイド自転車だ。この2社の提携にはある背景があった。
そもそもROAM Special Cyclesは以前から、障害者用のロードバイクを製造してきた。その品質は非常に高く、いずれも車椅子へのアドオンとして設計されている。基本的な仕組みとしてはハンドルバーを利用してホイールにい動力を供給するシステムを採用しており、そのパフォーマンスも非常に高く評価されてきた。
しかし、問題もあった。手の障害を持つ方の場合、通常のハンドルバーを使用できないのだ。たとえば指がない場合は十分な力をハンドルにかけられず、サイクリングすることが難しい。いかにしてこの問題を解決するか、それがROAM Special Cyclesの課題だった。
そのソリューションにおいて、重要な役割を果たすことになったのが3Dプリンターだ。単一規格のハンドルではどうしても使用できない人が生まれてしまう。そこで工業用3Dプリンターを使用して、それぞれの障害に応じいたカスタムメイドのハンドルを作成することで、この問題を突破することにしたのだ。
実はすでにクライアントはいる。ロンドンパラリンピック、リオパラリンピックにオランダ代表として自転車競技で参加し、複数のメダルを獲得したメダリストであるローラ・デ・ヴァンだ。彼女はROAM Special Cyclesのカスタムハンドルを使用して競技に参加した最初のクライアントである。
現在、ROAM Special CyclesはTractus3Dとの協業のもと、より多くの障害者にカスタムメイドのハンドルを持つロードバイクの提供を目指している。実際、現在このカスタムメイドハンドルの製造プロセスは最短で1営業日以内に完了することができるらしい。これによって今までは自転車に乗ることができなかったクライアントが、自転車と共に街に繰り出すことが可能になった。このように3Dプリンターは現在、障害者のモビリティ向上にも役立てられているのだ。
様々な形でパラスポーツに貢献する3Dプリント技術
ところで、日本でもパラスポーツのための器具を3Dプリントで製造する取り組みは行われている。
たとえばJSR株式会社は、アスリートや関係者を支援する技術開発を行う慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの「スポーツ・アンド・ヘルス イノベーション コンソーシアム」に参画し、パラアスリートの車いす競技用の3Dプリントグローブの製造に取り組んでいいる。
これまで車いす競技用のグローブは選手ひとりひとりが手作りするために制作に非常に時間がかかってきた。しかし、3Dプリント技術を駆使することで、身体にフィットしいたグロープを繰り返し、速やかに再現できるようになった。
あるいはパラスポーツ用の車いすを開発しいている埼玉県の企業RDSもまた3Dプリンターを大いに活用している。アスリートが座った状態の身体形状を測定し、3Dデータを出力。そのデータから3Dプリンターを使用してパーソナライズされた座面を作成することで、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる車いす製造を行っているという。
もちろん、パラスポーツを支えている技術は3Dプリント技術だけではないが、それが大きな役割を果たしていることは間違いないのだ。
果たして火蓋が切られた東京パラリンピックではどんな驚きが待っているのだろうか。それを楽しむ上では、是非ともこうした技術的な部分にも着目しつつ、アスリートたちの奮闘に目を凝らしてみてほしい。