マルハニチロがバイオシーフード企業との提携を発表|3Dプリント水産物は食糧危機を救うか
過去30年でおよそ65%も減少している日本の漁獲量
今年の夏も例外的な猛暑日が続いた。数年前まではあくまでも机上の推論に感じられていた「気候変動」は、現在、誰もが体感レベルで感じている喫緊の問題となっている。
気候が変動することによる問題は様々ある。だが、私たち人類にとってまず懸念されることは、体感気温の変化以上に、食糧危機の到来だろう。およそあらゆる農作物が気候変化の影響をダイレクトに被ることはいうまでもない。しかし、農作物のみならず、気候変化の影響を強く被るのが水産資源だ。
現在のリサーチによれば、熱帯海域における潜在的漁獲量は、2050年までに最大40%減少すると言われている。これは海音の上昇にともなうサンゴ礁の白化現象とも関係しており、熱帯海域における生態系はすでに大きく変化し始めている。
一方で北大西洋、北太平洋などの高緯度海域では、一部の魚種の生息域が拡大していることもわかっており、必ずしも全ての漁獲量が低下しているわけではないとはいえ、少なくとも日本の漁業者にとっては厳しい状況が続くことが懸念されている。
日本人にとって馴染み深いところではサンマ不漁だ。このサンマ不漁の原因にも地球温暖化があると言われており(IPCCの報告)、あるいは気候変動によって逆に生息量が増えた魚種によって養殖漁場が荒らされるなどの被害も相次いでいる。
四方を海に囲まれた日本にとって水産物は主要な食糧の一つであり、また日本の食文化の豊かさを支えてきたものも、多様で新鮮なシーフードであった。このまま気候変動が続けば、私たちは現在のような気楽さでは魚が食べられなくなってしまうかもしれない。
こうした状況において、私たちにできること、それはまず気候変動の速度を緩めるための取り組みを行うことだろう。ただ、大きな視点に立った時、気候変動を止めるということはほぼ不可能だとも言われている。すると、私たちはこの生態系の変化に伴う食糧危機対して、ただ抗うだけではなく食文化そのものを適応させていく必要もあるということになる。
すでにそうした取り組みは行われている。そして、そのための鍵の一つとなっているのが、フード3Dプリンターだ。
日本のマルハニチロがシーフード3Dプリンティングに本格参入
先日、日本最大の水産会社であるマルハニチロが、ある重要な決定を行った。日本および潜在的に他の市場で細胞培養魚介類の開発と商品化を目的として、シンガポールに拠点を置くUmami Bioworks (旧名Umami Meats ) との戦略的投資および協力パートナーシップを発表したのだ。
©️Umami Bioworks
Umami Bioworksは牛や豚が先行していた3Dプリントミートの業界で、シーフードの3Dプリントを手掛ける企業として知られており、その取り組みに関しては、以前にも記事で紹介したことがある。今回のマルハニチロとの提携は、日本の水産会社が水産物生産のための細胞農業を専門とする外国企業と提携する初めてのことであり、オルトシーフード全体を一般に普及させていく上での布石となるだろうとも言われている。
ワンコインで「うな重」が食べられる日は近い?|Umami MeatsとSteakholderが開発する3Dプリント「ウナギ」
https://skhonpo.com/blogs/blog/3dunagi?_pos=1&_sid=a12472ddb&_ss=r
マルハニチロは今回、国内外の養殖水産物生産の開発と商業化を目的とした提携の一環として、Umamiの細胞培養開発・製造プラットフォームへのアクセスをその提携の主要な目的としている。そこには日本および世界における養殖水産物の商業化への道を加速するための、マルハニチロによる戦略的投資と包括的な研究協力が含まれている。
©️Umami Bioworks
「Umami Bioworks は独自の技術により細胞培養水産製品のプロトタイプ開発に成功しました。細胞培養魚介類の認知度を高めるため、展示会や試食会などの活動も積極的に行っている。細胞農業は新興産業であり、マルハニチロにとって新たな市場の創出に向けて取り組む上で、技術の確立と同様に消費者の理解を促進することが極めて重要です」(マルハニチロ)
現在、日本の水産物自給率は55%。その漁獲量は過去30年でおよそ65%も減少している。これは日本人の水産物消費量を考えると非常に由々しき数字だ。農林水産省によれば日本の個人あたりの魚介類消費量は世界のトップ5に入理、水産物市場としての規模も世界第三位。それにも関わらず、漁獲量が現象の一途を辿っているというのは、非常にバランスが悪い。
マルハニチロ、Umami共に、特に焦点を当てているのは絶滅の危機に瀕している魚の養殖だ。Umamiの技術は、汚染された海洋を回避して、漁業を行わずに魚介類を「栽培」するシステムを開発している。これは気候変動下において安定したシーフード供給を行う上で、今後さらに注目を集めていくことになるはずだ。
「愛される食品製造の世界的リーダーであるマルハニチロとの独創的なパートナーシップは、環境への影響を最小限に抑えながら、増加する世界人口に食料を供給するという課題に取り組むという私たちの使命を達成するための極めて重要な一歩です」
そうUmamiのCEOであるパーシャッド氏は語る。私たちがこの先も海の幸を堪能することができるかどうかが、こうした一連の技術にかかっているということは、よもや疑いえないことなのだ。
マルハニチロ 「細胞培養パイオニアのシンガポール企業、UMAMI Bioworks社とともに魚類の細胞培養技術の確立に向けた協業を開始」
https://www.maruha-nichiro.co.jp/corporate/news_center/news_topics/16f94426327975c3cb281678a9896628.pdf