複雑な形状の氷を3Dプリントして鋳型をつくる「アイスキャスティング」法とは? 溶解でも焼結でもない「氷結」という新たな発想
溶解でも焼結でもなく「氷結」
3Dプリントの素材は数多ある。樹脂、金属、樹木、あるいは繊維や食品、さらには細胞まで、3Dプリンターにかかればなんでも造形素材として用いることができる。
そんな中、意表をつくような素材を使ってこれまでにない複雑な微細構造を造形する新しい方法が開発された。気になるその素材とは、他でもない「氷」だ。
今回、3Dプリントされた氷を使用して複雑な微細構造を造形する技術を開発したのはカーネギーメロン大学の研究チーム。なんでもこの技術の成熟によって、医学や生物工学、さらには商品製造や芸術制作における多くの進歩が達成される可能性があるとのことだ。
彼らの研究している方法いついては科学ジャーナルメディアである「Advanced Science」に詳述されている。基本的には水をインクとして押し出すインクジェットプリンターを使用し、それらの水が直接氷となって、さらにその氷を樹脂が包み込むという形らしい。樹脂に閉じ込められた氷はやがて溶け出して水となり、それらが取り除かれることで、氷が立っていた経路のみが残るという形だ。
プリンターは水滴を温度制御されたプラットフォーム(-3℃)に落とすことで即座に凍らせていく。水が素材として変幻自在な流体性を持つことは言わずもがな。今回の研究発表においてはこの特性を利用する形で、螺旋型やタコなど、滑らかな流線を持つ構造を連続的に印刷して見せている。
何より特筆すべきは、氷が自然に溶けるため、鋳造後に内部構造を簡単に除去できるという点だろう。これはアクセサリーやジュエリー制作におけるロストワックス(鋳型製造)を行う上で、非常に大きな利点になる。なおかつ水の特性を利用すれば、今までであれば困難だった微細な構造も実現することができる。
現状ではまだ開発過程とのことだが、この「アイスキャスティング」が一般に実装された場合、様々なものつくりの現場で大いに役立っていくだろうことは間違いない。熱で樹脂を溶かすでも、粉末を焼結するでもなく、水を氷結させるというのが新しい3Dプリントのモードということか。年々猛暑化する世界においてなんとも涼しげな話だ。今後の発展に期待したい。