マッハ5を超える「ハイパーソニック」飛行サービスが来年にも提供開始か? 実現の鍵を握っているのは3Dプリント技術
スーパーソニックを超えるハイパーソニックとは?
近年、「超音速」というワードが注目を集めている。
この「超音速=スーパーソニック」とはマッハ1を超える速度のことを指す言葉で、現在ではおよそマッハ1.3〜5の範囲についてそう呼ばれている。現在、軍などで使用されているジェット戦闘機の最高速度がこの範囲にあるとされているが、近年では旅客機にも超音速機が登場し、海外旅行にかかるフライト時間が大幅に短縮されると話題になっていたのだ。
一応、解説しておくと、マッハとはすなわち音速のこと。マッハ1を時速1225kmとするのが現在では一般的で、つまりこれ以上の速度で動くものは超音速にカテゴリーされることになる。
それにしてもすごい時代になったものだ。「スーパーソニック」と聞けば英国のロックバンドOASISの不朽の名曲がまず思い浮かぶものだが、あの歌詞においては気分の高揚感を自分が体験したことがない速度に喩えて「スーパーソニック」と表現していただけだった。それがいまや一般人がスーパーソニックで移動する時代になったというのだから、隔世の感がある。
ところで、近年、実はこの「超音速=スーパーソニック」を超える速度についての研究が飛躍的に進んでいるという話をご存知だろうか。その名も「極超音速=ハイパーソニック」。その速度としての定義は、なんとマッハ5.0以上。人類は再び新しい壁を越えようとしているようだ。
3Dプリンターはマッハ5の旅を実現するか
極超音速はこれまでスペースシャトルの再突入時の速度と、その際に生じる特殊な現象(衝撃波層の出現など)のことを指して使ってきた言葉だった。しかし、2022年の頭に米国政府が、極超音速航空機のテストを米軍が開始しているということを発表したことで、その一般実用化の実現がいきなり射程に入ってきた。
そして注目すべきは、この極超音速域の研究において大活躍しているのがAM企業、つまり3Dプリント技術だということだ。
極超音速域においては、様々な特殊な状況が発生する。そのため、極超音速航空機の製造においては、こうした様々な状況に耐えうるエンジンやボディパーツが欠かせない。これは基本的に実験によってトライ&エラーを繰り返すしかないのだが、そのための最適な設計を考案し、実際に形にするまでにかかる時間を、3Dプリント技術が大幅に短縮しているのだ。
たとえば極超音速域の研究をしているパデュー大学のザクロー研究所では、主にVELO3Dという3Dプリンターを使用しているそうだが、実際、研究者たちはこの研究にVELO3Dが絶対に不可欠であるということをメディアの取材に対して述べている。
VELO3D
先日も米国のStratolaunch社が、極超音速航空機「Talon-A」の実験を年内に実施すると発表して話題になった。同社のCEO兼社長のZachary Krevor博士は「当社の極超音速航空機Talonが、極超音速条件の広範な設計範囲を達成するために必要な機体性能を実証している」と話しており、同社の公式Twitterアカウントは、Talon打ち上げに必要な高度まで到達可能であることを示しているとツイートしている。さらには2023年には極超音速飛行サービスの実用化を進めたいとも話しており、ハイパーソニック時代の到来は決して夢物語ではなくなってきているのだ。
Stratolaunch社の双胴航空機「Roc」。同社はRocにTA-0を装着し空中で発射分離する試験を2022年中に実施する可能性があるという。
果たして、人類が気軽にマッハ5を超える速度で国々を行き交う日は訪れるのだろうか。実現へと向かう速度をハイパーソニック化させるための鍵を握っているのは3Dプリント技術かもしれない。