寿司テレポート、コオロギクッキー、違法フカヒレ…、加速する3Dフードプリントの世界
日本からアメリカへ寿司が瞬間移動する?
3Dプリントによるフェイクミート、オルトミートの出力については、これまで幾度も取り上げてきた。
最初はビーフに始まり、現在ではチキンやポーク、あるいは魚介類の3Dプリントも研究されている。たとえばオーストリアのスタートアップRevo Foodsが手掛けているのが3Dプリントサーモンだ。すでに試食会なども行われており、ネット上でレビューを見る限り、味もかなり良さそう。こうなると期待されるのが、アジやマグロなどの他の魚肉への展開である。
Revo Foods
そんな中で、変わった取り組みを行っているのが日本の「OPEN MEALS」だ。何より目を引くのは、そのキャッチーなプロジェクト名だろう。「寿司テレポーテーション」「デジタルおでん」「サイバー和菓子」「寿司シンギュラリティ」。聞くだけでも想像力を刺激される「OPEN MEALS」の取り組みは、最近もメディア『現代ビジネス』に取り上げられ話題となった。
具体的にどんなプロジェクトかといえば、たとえば「寿司テレポーテーション」は寿司をデジタルデータ化し3Dプリンターで出力するというもの。こちらは実際にそのデモンストレーションが2018年に行われている。ピクセル化されたマグロの寿司のデータを、日本からアメリカに送信、実際にそれを出力して見せたのだ。
さらに「OPEN MEALS」はそこに客それぞれの個人の健康データを紐付け、それぞれの健康状態に合うように栄養価をカスタマイズした形で寿司を提供するサービスまで構想しているという。「寿司シンギュラリティ」とはいつか始まるだろうその実店舗の名称だそうだ。
どんな技術もまずはアイディアから。いささか突拍子もなく聞こえはするが、これらが実現すれば日本ではおなじみの「出前」の概念が根底から覆される。お気に入りの寿司屋の寿司を食べるために、その店の近くにいる必要がなくなるというのはすごい。ニューヨークにいようがジンバブエにいようが火星にいようが、3Dプリンターさえあれば気ままに寿司が食べられるのだ。もはや便利を通りこして、夢のような話である。
昆虫が苦手でも食べられるコオロギクッキーとは
3Dプリンターを用いたユニークな「食」の実践は他にも様々に行われている。
たとえば今夏、山形大学の研究チームは「代替食品における3Dフードプリンターの活用」研究において、昆虫のコオロギを粉末状にしてクッキー生地と混ぜた材料を3Dプリントするという研究を発表した。
昆虫はたんぱく質やミネラルを豊富に含み、また飼育にかかる環境負荷が少ないことから食肉の代替品としての期待を集めている。しかし、いかんせん、あの見た目が忌避感を呼んでしまい昆虫食の普及を妨げているのでだ。
そこで研究チームは昆虫をいったん乾燥させ、パウター化することによって忌避感を抑えようと考えた。粉末化したそれを、他の材料と混ぜてクッキーの形状に3Dプリントすることで、コオロギ感のないコオロギクッキーを作ることにしたのだ。
画像:山形大学
試行錯誤の末に出来上がったクッキーは、すごく美味しそうではないものの少なくともコオロギの面影はとどめていない。これならば、こっそり茶菓子として出せば昆虫嫌いな人もうっかり食べてくれそうだ。
違法フカヒレを防ぐために超精巧の3Dプリントフカヒレが
あるいは、全く別のところで、3Dフードプリントが思わぬ活躍をしているケースもある。
それは他でもない、あの高級食材「フカヒレ」に関するものだ。
フカヒレは非常に人気が高い食材だが、一方で希少なサメの乱獲を防ぐために、輸出入や販売に関しては厳しい規制か敷かれている。しかし、それでもなお密輸や密猟が絶えない。そこで野生生物の違法取引撲滅に取り組むNGO「TRAFFIC」はそうした密輸を封じ込めるために3Dプリントされたフカヒレを開発したのだ。
果たしてそれはどう使われてるのか。食用、では実はない。空港や港の税関職員らが、運ばれたフカヒレが、乱獲や密漁により絶滅危機に瀕している保護対象種かどうかを見分ける訓練をするためのサンプルだ。
なんでもフカヒレの鑑識には相当な腕がいるらしく、写真資料と見比べる程度ではなかなか見分けがつかないらしい。そのため超精巧なレプリカを作成することで、現場の職員たちの精度向上を図ったのだ。
ちなみに現在「TRAFFIC」では11種22枚のフカヒレの3Dスキャンデータや印刷塗装方法などの詳細を無料公開しているという。興味がある方は実際に出力してみるのも面白いかもしれない。
https://www.traffic.org/3d-replica-shark-fins/
3Dプリントフードが食卓に並ぶ日
ますます活況を呈している3Dフードプリントの世界。その用途は様々だが、いずれにせよ、我々の食卓に3Dプリントされた食材が並ぶ日はそう遠くはなさそうだ。
現在、食に関しては遺伝子組換え食物などが水面下で普及しつつある。それらはいまだ人体への影響が十分には分かっていない。安全とも危険とも言い切れない代物だ。一方で、3Dプリントミートは成分が明確であり、そういった意味でのリスクはほとんどない。加えて、環境への負荷も小さいことから、来たる食糧危機時代において最も注目される技術である。
今後もチェックしつつ、最新の動向を紹介し続けたい。
(Top image/ https://www.youtube.com/watch?v=dSdPfKmOoDw)