
3Dプリンターで出力した「血液も栄養素も循環する生きた人工皮膚」とは?
本物の皮膚と瓜二つの3Dプリント皮膚
バイオ3Dプリンターに関連してまた新しいニュースが届いた。
以前、移植用の心臓を3Dプリンターで出力するという記事を書いたが、その際、今後の課題となっていたのは「その人工心臓が本物の心臓と同じように振る舞えるようになる」ことだった。
当然、これは難題である。なんせ、出力した臓器が本物の臓器と同様の働きをするようになれば、それは人間の身体が本格的に交換可能なものとなることを意味するからだ。もちろん、そのようなSF的な技術が簡単に完成するべくもない。時間はまだまだ掛かる。しかし、その難題への取り組みを一歩前進させる、暗闇に一筋の光を差す技術が、登場したのである。
まずはこの動画を見てほしい。
これはTバイオウイルスの開発動画では当然ない。この動画はアメリカのレンセラー工科大学によるもので、3Dプリンターで「血管が詰まったリアルな皮膚」を3Dプリントしている様子を撮影したものだ。
からくりとしては3Dプリント心臓と同じである。しかし、今回の何がすごいかというと、すでにマウスを使った実験でその人工的にプリントされた皮膚の血管と、マウスがそもそも持っていた血管とがきちんと繋がり、血液や栄養素が循環されることが確認されているということなのだ。
これはつまり、3Dプリンターで作った皮膚を身体が完全に受け入れたということを意味する。ちなみに見た目にも違いは分からない。なんせ本物の皮膚と瓜二つであり、さらに構造も同じなのだから。少なくとも、皮膚に関して、あるいはマウスが対象であれば、皮膚のオーダーメイドはすでに実現しているのである。
鍵を握ったのはコラーゲン
この技術を開発したレンセラー工科大で研究を率いていたのは、パンカイ・カランドさんという人物だ。カランドさんいわく、今回の技術と比較したとき、「これまで使用してきた人工皮膚は高級バンドエイドのようなもの」に過ぎないという。バンドエイドは傷の治療を促進こそすれ、最終的には身体に受け入れられることがない。これまでの人工皮膚においては、もともと身体が持っている細胞と最終的にマッチすることがなく、これがこれまでの皮膚移植の大きな障壁となってきたのだ。
カランドさんは、血管の内側を覆うヒト内皮細胞や、内皮細胞の周囲を包む周皮細胞の重要な要素に、動物のコラーゲンなどを加えるということを試みた。これによって細胞同士が連絡を取り合えるようになり、人工血管ともともとの血管が結合するようになった。
スキンケアにもコラーゲンは欠かせない。そもそも、人間の体を構成しているタンパク質の1/3はコラーゲンである。コラーゲンを鎹にカランドさんが作り出した新しい人工皮膚においては、血液と栄養分が常に移植片にも輸送され、一定期間を経ても皮膚が生き続けることができるという。現状では人間の身体ではまだ試されていない。臨床レベルで利用可能にするためには、今後ドナーの細胞を編集し、血管が患者の体に統合され受け入れるようにしていく必要があるとのことだ。カランドさんは「まだその段階ではないものの一歩ずつ近づいている」と語っている。
果たしてこの技術が一般化した暁には、もはや肌の老化に悩むこともなくなんるのかもしれない。赤ん坊のような肌を3Dバイオプリントして全身に移植、さらには3Dバイオプリント臓器を移植して、常に若々しく健康な身体を万人が手にするようになる…。それがユートピアかディストピアかは分からない。しかし、3Dバイオプリント技術とともに、私たちはその世界へと「一歩ずつ近づいている」。