3Dモデリングは「終わりの始まり」を迎えようとしている|ChatGPTを使って3Dモデルを生成するツール「EMARF AI」の衝撃
VUILDが開発を発表したツール「EMARF AI」の衝撃
3Dプリンターで何かを出力する上で欠かせないものといえば3Dモデルであり、その3Dデータの制作を意味するモデリングである。
このモデリングが今後の世界においては重要な技術となることは、本欄でもなんども指摘してきた。一方でモデリングソフトの進歩によってモデリングの敷居は徐々に下がってきており、いずれはもっと簡単に誰でもがモデリングを自在に行うことができる時代が来るかもしれないという指摘も行ってきた。
しかし、まさかこんなにも早くモデリングに革新が起ころうとは、正直想像していなかった。
2023年5月9日にVUILDがその開発を発表したツール「EMARF AI(仮)」の話だ。大袈裟な話ではなく、この「EMARF AI」が予定通りに開発されたら、必ずやモデリングのあり方は根本的に変化することになる。
会話の内容をもとに3Dモデルを生成
では、「EMARF AI」とは一体どんなツールなのだろうか。開発にあたっているVUILDいわく、「EMARF AI」はChatGPTを使って3Dモデルを生成するツールとのことだ。
ChatGPTとはご存知の通り、OpenAIによって開発された大規模言語モデルのこと。多数の言語データを学習し、自然言語での対話をシミュレートできるように訓練された、人間と同じように質問に答えたり、会話を続けたりすることができる最先端のAIである。
3Dプリンターの未来についてチャットGPTに訊いてみた
今、このChatGPTと外部のサービスを連結するためのプラグインが次々に開発されている。ChatGPT自体は会話に特化したAIだが、プラグインによって外部のソフトウェアとつなぐことで、会話をベースとした様々なアクション、たとえば作曲や画像生成が可能になる。
つまり、「EMARF AI」とは会話の内容をもとに3Dモデルを生成することができるソフトということだ。これが革新でなくてなんというべきだろう。
VUILDによれば、「EMARF AI」では会話をベースに基礎となる3Dモデルを自動生成し、サイズや形状のディティールに関してはテキストベースで編集していく形となることを想定しているという。さらに自動生成された3Dモデルを即座に図面化することもできるとのことで、完成した暁には様々な業界で即戦力となることは間違いない。
加えて、VUILDは「EMARF AI」経由での図面の加工依頼も受け付ける予定でいるようだ。制作金額の見積りも自動で算出し、注文すると、デジタル木材加工機「ShopBot」で加工された木パーツが1週間程度で届くというシステムが構築されることになるらしい。
もう自力で3Dモデリングする必要なし?
もともと「EMARF」はVUILDが運営する、セルフオーダー式の木材プレカットサービスである。Illustratorや3DCADソフトで作成した本棚、椅子、テーブルといった家具などの図面をアップロードし発注すると、カットされた木材が届くというサービスを提供していた。
公開された「EMARF AI」の動画では、「シンプルでシュッとした感じのスツールを作ってください」という入力に対して、瞬間でスツールのデザインが提供されている。そこに「それを身長130cmくらいの子供が座りやすいサイズに調整してください」と入力すれば、要望通りにリサイズもこなしている。もちろん「座面を丸くして」「二人がけ用がいい」「3本足にして」「もっと特徴的なものを」といった要望にも対応している。
とにかく、おそるべきものが誕生しようとしている。3Dプリンターの普及をこれまで制限してきた最大の要素は、3Dモデルをモデリングすることの難しさだった。しかし、それはもう過去の話となりつつあるのだ。「EMARF」は家具製作のサービスであり、果たして「EMARF AI」がどれくらいの汎用性を備えたツールとして提供されることになるかは分からないが、こうしたソフトウェアが様々な形で普及した暁には、もはや自分の手で3Dモデルをモデリングする必要はなくなる。
実際、「EMARF AI」以外でも、3DCGソフトの発達は目覚ましく、4月には1枚の画像から自動で3Dモデルを生成するツールとして「Kaedim」が登場し話題となった。
もちろんその精度などについては実際に使用してみないことには分からない部分も多いが、仮にすぐに満足いく精度を持っていなかったとしても、今後、急速に改善されていくだろうことは容易に想像しうる。
再び「ものつくり革命」が起こる
一方で気になるのはプログラマーやモデラー、さらにはデザイナーなどの職業に対する需要が今後どうなっていくのかということだ。この点については、様々な角度からの考察が求められ、一概にどうなるだろうとは推測できないが、業界そのものが大きく刷新されるだろうことは論を俟たない。
革命とはえてして連続して起こる。3Dプリンターがもたらした「ものつくり革命」は、今、次なる革命へと向かいつつある。私たちはもしかするとすごい時代に居合わせているのかもしれない。