
工具不要、3Dプリントだけで組み立て可能!子どもたちのための次世代車いすが誕生
もしも、3Dプリンターだけで、しかも工具やネジを一切使わずに、子ども用の車いすを作れるとしたら? そんな“夢のようなプロジェクト”が、アメリカ・ニューオーリンズを拠点とする非営利団体「MakeGood」によって実現されました。
このたびMakeGoodが発表したのは、世界初となる完全3Dプリント製の子ども用車いす。すでにプロトタイプが完成し、将来的には誰でもダウンロードして、家庭用3Dプリンターで出力・組み立てできる形での提供が予定されています。
2歳から8歳までを対象にした“未来のモビリティ”
この車いすは、2〜8歳の子どもを対象にデザインされており、特に運動障害を抱える子どもたちに、早期からの「自立した移動手段」を提供することを目的としています。
開発にあたり使用されたのは、弊社SK本舗でも取り扱い中のBambu Lab社のデスクトップ3Dプリンター「A1」。家庭用ながら高精度かつ高速な出力が可能で、すべての部品がこの1台でプリントされています。
最大の特徴は、工具・ネジ・接着剤が一切不要な点。パーツ同士がパズルのように組み合わさる構造で、直感的に組み立てることができます。組み立てのハードルを下げることで、必要とする家族が世界中どこにいてもアクセスできるようになるというわけです。

子どもの成長や使用シーンに合わせた実用性
素材にはPETG(ポリエチレンテレフタレートグリコール変性)という耐衝撃性に優れたプラスチックが使われており、屋外使用や日常の衝撃にも安心。フレームからホイール、タイヤ、座面、さらには安全ベルトに至るまですべてが3Dプリントで製作されています。
座面にはラティス(格子)構造が採用されており、通気性と柔軟性を兼ね備え、子どもたちの体に優しくフィット。成長に応じて調整可能なフットレストや、呼吸器などの医療機器を収納できるリアコンパートメント(小物入れ)など、実際の使用を想定した細やかな配慮が詰まっています。
さらにホイールは通常の円形ではなくやや長めの楕円形状。これにより小さな子どもでも回しやすくなっており、「初めての車いす」として理想的な操作性を実現しています。
壊れた際にはモジュール式構造のおかげで、壊れた部分だけを再出力すればOK。全体を買い直す必要がなく、メンテナンス性にも優れています。
デザインの裏にあるコラボレーションと挑戦
このプロジェクトの背景には、MakeGoodのほかにも複数の団体が関わっています。
もともとMakeGoodは、「Toddler Mobility Trainer(TMT)」という幼児向けの木製歩行トレーナーを開発していました。このTMTをより多くの人に届けるために、「Tikkun Olam Makers(TOM)」というグローバルな福祉機器デザインの支援団体と連携し、3Dプリントで再設計するプロジェクトが立ち上がったのです。
さらには、産業デザインを専門とする「LINK PBC」とも協業し、木工製品から3Dプリント製品への移行が実現。工具を必要とする従来の製造方法に縛られず、自由度の高いデザインと生産性の両立が可能になりました。
「誰でも作れる」未来を目指して
この車いすは、現時点ではプロトタイプの段階ではあるものの、将来的にはデータをオンラインで無料公開し、誰でも好きな色でプリントして使えるようにする計画です。
MakeGoodの創設者Noam Platt氏によると、現在もフィールドテストやユーザーからのフィードバックを通じて、さらなる改良が進められているとのこと。すでにSNSでは製作過程や試作機の写真・動画が多数シェアされており、世界中の注目が集まっています。
テクノロジーが福祉を変える、その先に
このプロジェクトは単なるプロダクト開発ではありません。誰一人取り残さないデザインを、手に届く形で実現するための新しい取り組みです。
一般的に、子ども用の車いすは高価で、しかも成長とともに買い替えが必要。そのたびに大きな費用や時間がかかってしまうという課題がありました。しかし3Dプリントとオープンソースの仕組みを活用すれば、それを必要とする家族自身が自分たちの手で、自分たちのペースで最適な道具を手に入れることができるのです。

日本でも広がる可能性は?
日本でも、少子化や障がい児支援の重要性が高まる中で、このような取り組みは非常に意義深いものと言えるでしょう。もしこの車いすのデータが公開されれば、日本のメイカースペースや福祉施設、教育現場などでも活用される日が来るかもしれません。
テクノロジーが“誰かを支える”道具になる。その具体的な未来を、この小さな車いすは静かに、けれど確かな存在感で示してくれています。