
シロアリの糞が3Dプリンターの材料に!? ドイツの研究機関が開発した持続可能な新素材
食べ残した木くずと糞で3Dプリント
21世紀は「環境の世紀」とも呼ばれている。特に2010年代後半以降は「気候変動」がにわかに切迫した問題として人々の関心を集めており、持続可能な開発目標を意味する「SDGs」などの言葉もここ数年でかなり浸透した。
そんな中、3Dプリンターのプリント材料に関しても、より持続可能な材料の開発が進められている。たとえば、先日、ドイツの連邦材料研究試験研究所が、シロアリやキクイムシなど、木材を食べる昆虫の糞や食べ残しの木の粒子を素材とする3Dプリント原料を開発した ことを発表し、話題となっている。
今回、研究者はシロアリの糞を利用して、200μmの寸法精度で立方体構造を3Dプリントすることに成功した。(画像引用:BAM)
研究者いわく、このユニークな循環型の原材料は、すでにポリマー添加物を一切使用せずにバインダージェット式の3Dプリンターに用いることができるという。出力物の強度こそまだ低いものの寸法の精度は高く、将来的には環境負荷の低く、かつ3Dプリントにも最適の理想的な材料となる と見込まれている。
そもそも、3Dプリント技術は従来の製造方法よりも環境負荷が低いということは語られてきた。しかし、そうとはいえ、製造には材料がかかり、弊社でも扱っているレジンを始めとする樹脂は石油由来でもあることから、一方では代替案が常に模索されてきた。もちろん、樹脂だから必ずしも悪いという話ではなく、より環境負荷の低い材料はないかと研究が進められてきたということだ。
その点、シロアリやキクイムシなどの糞や食べ残しという天然原料を用いることは次世代の3Dプリンティングの希望ともなりうる。あるいはユーザーが自宅で材料を自作することも可能になるため、費用面においても持続可能なソリューションとなる可能性があると言われているのだ。
昆虫の消化システムを利用して均一な粉末を精製
ところで、この新素材の面白い点は、昆虫の消化システムを利用しているところだろう。以前、弊社記事でも紹介したように、バインダージェット式とは粉末を利用した3Dプリント方式のことだが、金属を始め、様々な材料を用いることができる一方、それらの材料を適切な粒子径の粉末に精製することは、依然として困難であり、少なくとも個人が行うことはできないとされていたのだ。
しかし、シロアリやキクイムシなどは、不均一な木材をコンパクトなセルロースとリグニンの混合物に変換し、それ以上の処理をしなくても3Dプリントに適した粉末に変換してくれることが今回の研究で判明した。以前なら、木材を原料とした材料では、印刷するためにポリマー添加剤を使用したり、他の結合相を使用したりする必要があったのだが、シロアリの作り出す木くずや糞はそのような必要がなく、そのままでも独特の加工のしやすさを実現しているらしいのだ。
実際、研究者は小規模農場でシロアリなどを飼育し、6ヶ月に渡り餌を与え続け、その糞を集め続けたところ、それらの糞は、すべてほぼ同じ大きさで、かつ流動性にも優れており、均一な層を作るのに最適であることがわかったという。
3Dプリントされた立方体構造は、充填密度が低いのが現場における特徴だ。(画像引用:BAM)
ただ冒頭でも触れたように、現状では強度に難があるとのことで、すぐに使用可能なオブジェクトをプリントするためには、まだ適していない らしい。研究者によれば後処理による補強は必要だが、木材ベースのフィリグリー構造を作る上で最適な原材料となる可能性があるとのことだ。これは特に住宅の3Dプリントにおいて大いに役立つ可能性がある。
おそらくは今後、こうした事例に加え、様々な材料の開発が進むことが予想される。もちろん現在、弊社は自信を持って高品質のレジンを製造販売しているわけだが、技術の進歩には敏感に対応し、様々な観点からよりよい商品を提供していきたいと思っている。