PLA、ABSに次ぐ注目のフィラメント「PETG」|最も使いやすいフィラメントはどれか?
近年注目を集めているフィラメント「PETG」
家庭用3Dプリンターの出力方式において、現在主流とされているのはFDM(熱溶解積層方式)とSLA(光造形方式)だ。
SK本舗は当初よりSLA3Dプリンターをより多く扱ってきたが、現在ではFDM3Dプリンターも取り扱っている。
そこで今回はFDM3Dプリンターにおいて出力素材となるフィラメントの種類について、特に近年注目を集めているPETG(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)の特徴について、解説してみたい。
PLAとABSの利点を兼ね備えた素材
フィラメントにはいくつかの種類がある。
中でもこれまで最も市場に流通していたのはPLA(ポリ乳酸)とABS(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン)だろう。
このPLAとABSにはそれぞれ特徴があり、一般にPLAは反りにくさ、匂いの少なさにおいて優れており、一方のABSは耐熱性において優れていると言われている。
これまでFDMユーザーは、それぞれの用途や目的に応じて、このPLAとABSを使い分けてきたわけだが、そんな中、数年前に登場したのが新しいフィラメントPETGだった。
PETGは一般にPLAとABSの双方の利点を兼ね備えた素材として評価されており、現在、PLA、ABSと並ぶ新たな王道フィラメントの候補として注目を集めているのだ。
PLA、ABSの利点と欠点
もう少し詳しく見ていこう。
PLAは、トウモロコシやサトウキビなどの作物から作られる素材で、これまで何よりその使いやすさにおいて評価されてきた。PLAは周囲の環境にあまり敏感に左右されないため、さまざまなスライサー設定で動作しやすく、あまり手間をかけずに適切な印刷を実現できたのだ。
ただ、PLAには欠点もあった。強度が弱いのだ。一般にPLAでプリントされた部品は、3Dプリントモデルの層間の接着力が低いため、非常に脆いことで知られている。また、熱にも弱く、高温や紫外線によって、部品が変色したり変形したりしやすいとも言われてきた。
その点、アクリルニトリル、ブタジエン、スチレンという三つの物質を結合させて作られるABSは耐久性、引張強度、耐熱性に優れており、高い汎用性をもつフィラメントとして知られてきた。適度な柔軟性があることから研磨もしやすく、機械部品での使用などに適しているのだ。
ただ、適切なプリンターセットアップでないと正しく造形できないとも言われており、やや使いづらいとも言われてきた。特に温度管理が重要で、冷却速度が速すぎると割れやすくなってしまう。そして、もう一つの欠点として、3Dプリント時に発生する焦げたような匂いが挙げられる。使用頻度が高い場合には十分な換気設備が必要とされ、またABSは食料安全は保障されていないため、食器などの食品周りの製品を作ることが難しかった。
PETGの優れた点と現状の限界
さて、PETGである。PETGは原油、特に化学成分のエチレングリコールとテレフタル酸から作られるフィラメントだ。
その特徴はまず、非常に高い耐久性と強度にある。また高温や紫外線、化学溶剤などへの耐性にも優れており、過酷な環境下においても耐えうる部品を3Dプリントする上で最適のフィラメントとなっているのだ。また非常に扱いやすく、適切な調整が行われていれば失敗が起きにくいフィラメントであるとも言われており、さらにABSで気になるような匂いもほとんど発生しないし、食品安全も保障されている。
このように見ていくと欠点がまるでないように感じられたかもしれないが、現状でPETGにはいくつかの難点もある。PETGの造形は非常に高い温度を必要とするため(ノズル温度は220度から250度)、兌換性のある3Dプリンタの種類が制限されてしまうのだ。
また設定温度の調整を誤ると、造形物に糸引きが起こってしまう可能性がある。糸引きとは、余分な材料がノズルから流れ出て、印刷物の周りに余分なプラスチックの小さな塊が残ることで、これはモデルの外観を損なう。さらにフィラメントがビルドプレートに過度に接着する傾向もあるため、PLAと比較した場合、ベッドからプリントを取り除くのがやや難しいとも言われている。
フィラメント選びの新しいオプションとして
このように、PETGは機能面においては非常に優れているものの、現状では完璧な素材とはまだ言い難い。
特にPLAと比較した場合、汎用性と使いやすさではPLAの方が一歩上回っている。ただ、強度や耐久性においてはPETGの方がはるかに高い。
結局は用途次第ということだろうか。
いずれにせよ、フィラメント選びのオプションが一つ増えることは喜ばしいことだ。是非とも一度、試してみて欲しい。