人間の「骨」を3Dプリントする技術

 

これまでもSKメディアでは臓器や血管のバイオ3Dプリンティングについては様々にレポートしてきているが、この技術にこれほど注目が集まっているのには理由がある。過去20年間で臓器移植を待つ間になくなった人は15万人超、そして、これまでの臓器移植のやり方ではこの問題は永遠に解決できないと言われているのである。では、どうすればいいのか。解決方法は一つ、それは「必要に応じて人間の臓器をプリントする」ことだ。

かくして医療分野における臓器プリント技術は日進月歩の勢いで進歩し続けているのだが、そんな中、現在では私たちの身体を形成する「骨」もまた3Dプリントの対象となってきている。

たとえば、今年の6月にはテキサスA&M大学の研究チームが、骨組織の3Dバイオプリンティングに使用できる新たなバイオインク「NICE」を開発したことを発表している。これまで、骨の3Dバイオプリントは、身体への適応においてハードルが多く、歯科医療などの限定的な部位を除いてはなかなか進んでこなかった。しかし、この人工細胞を含んだNICEバイオインクであれば、プリント後にネットワークを架橋して強力な足場を作りだし、細胞に優しい人体部位の環境を模倣することで、身体への適応が図られている。要するにNICEとは、問題なく移植可能な「人工骨」を作り出すことができるインク、というわけだ。

 

Source: Texas A&M University College of Engineering

 

まだ実験段階だが、臨床現場に導入されれば、患者に特異的な骨移植片を設計することによって、従来の治療法と比べて時間も費用も抑えた骨の欠損や損傷に対する医療を提供できる可能性があると言われている。多くの患者を救うかもしれない注目の技術だ。

 

3Dバイオプリントが人間を「身体」から解放する

 

同じく、3Dバイオプリントによる人工骨の出力を試みているのがウクライナで操業しているA.D.A.M.である。同社は、骨形成を促進し、高強度で生体吸収性の良い生体高分子材料を改質したバイオセラミックから3 Dプリント骨移植片を作るためのオンデマンド組織製造ソリューションの設計を試みている。

 

 

実際、すでにA.D.A.Mでは人工骨の製造が行われているのだが、現状ではまだFDA(米国食品医薬品局)からの承認は受けられていない。残すところは動物実験による安全性の確認となっており、A.D.A.MのCEOであるDenys Gurak氏曰く、あと1年半ほどで市場に提供できる見込みとのことだ。

この承認が通れば、少なくともまずは米国で「骨のインプラント」がより素早く、安価に行われるようになるということだが、A.D.A.Mのビジョンはさらに遠くへと向かっている。同社の最終目標は人間の「身体からの解放」だ。つまり、骨、臓器など、すべてを手軽な価格で3Dバイオプリントすることを可能にすることで、あたかも機械の部品を交換するかのように、身体を修繕、あるいは改造できる社会を作り出すことが、目標として掲げられているのだ。

 

 

こうした考えは「トランスヒューマニズム」とも呼ばれており、特に米国においては今まさに流行中の思想でもあるん。人間を超越することを意味するこの言葉は、身体にマイクロチップを埋め込むボディハッキングなどの実装とも相まって、にわかに現実味を帯びてきている。

 

 

日本で言えば、押井守監督らによってアニメ化されている漫画作品「攻殻機動隊」を思い浮かべる人も多いかもしれない。あの作品が描く近未来社会では、人々の身体は「義体」と呼ばれる人工的な身体に適宜に交換されており、そうした義体化された登場人物たちが激しい戦闘を繰り広げている。こちらはフィクションではあるが、実際にA.D.A.Mの「人工骨」は身体の「骨」よりも強い構造能力を持っているらしい。車に轢かれても無傷でいられるサイボーグへと人類が進化する日も近いということだろうか。いずれにせよ3Dバイオプリントの発展は、単にスムーズかつ安価な医療を提供するばかりではなく、そうしたサイバーパンクな未来を切り開く鍵となるかもしれないのだ。

 

 

A.D.A.Mはこの技術を「インフラ」化することを目指している。そのためにクラウドベースのデジタルプラットフォームを通じて、オンデマンドでバイオプリンティングを行うサービスモデルの確立も進めているという。現在は「骨」に焦点が当てられているが、他の組織においても研究を進めていくとのこと。3Dプリントは私たちの暮らしに関わる様々なものをプリントすることを可能にしてきたが、そもそもの「私たち自身」が3Dプリントされる日もそう遠くないのかもしれない。