
FDM3Dプリンターをレジン出力用に改造するという奇想天外すぎる実験
人類の進歩は果敢な挑戦によってこそもたらされる
世の中には「なぜそんなことをするんだ」と思うようなことに挑戦する人たちがいる。一般的にそうした人たちは社会から笑い者にされたり除け者にされたりすることが多い。実際、彼らの挑戦は多く失敗に終わるし、成功したところでそれが何の役に立つのか分からなかったりする。
ただ、人類の進歩はそうした果敢な挑戦者たちのトライ&エラーなしには果たせなかった。それこそ今それが何の役に立つか分からないような挑戦だとしても、そのプロセスにおいて生じた発見が、あるいは大きなイノベーションをもたらすことだってあるかもしれないのだ(もちろんないかもしれない)。
今回は3Dプリンター界におけるそうした挑戦者を紹介したい。
YouTubeチャンネル〈Proper Printing〉の主催者が現在挑戦しているのは、FDM3Dプリンターを使ってレジンを素材に3Dプリンティングを行うという、正直言うとなんでそんなことをわざわざするのか分からない、改造実験だ。
以下では彼の果敢な挑戦を駆け足で追ってみたい。
レジンをペースト化してノズルにレーザーを搭載
まず、この実験を行う上で最初に必要なこと。それはFDM3Dプリンターでレジンを使用するために粘性液体であるレジンを素早くUV硬化することだった。
そのために彼が行ったのは、いくつかの化学物質とフィラーを使用してペースト状のレジンを作り上げること、そして、プリンターの印刷領域に焦点を合わせた2つのレーザーヘッドを搭載することだ。
何度かの失敗を経て、ようやく上記のセットアップが完了。作動させてみると、おお、きちんと造形を開始したではないか。
ぺーストの配合を調整しながら試行錯誤した結果、プリントされたのがこちらだ。
微妙ではある、が、ひとまずはモデルが出力されている。一応は成功と言っていいんではないだろうか。ただ、問題もあった。レーザーがノズル内の材料を硬化せずひどい目詰まりを起こしたのだ。
ただ、いずれにせよ、これをあえて行うことによる積極的な意味は見当たらない。しかし、きっと彼にはそれを行うことが必要だったのだ。そして、やりきった。まずはそのトライを賞賛したい。
ノズル、光源、レジンを大幅に改良してみるも…
実を言うと、この実験には続編がある。
彼は前回の実験結果を踏まえて、このFDMレジン3Dプリンターを大きく改良することにしたのだ。
今回アップデートしたのは、ノズルと光源、そしてレジンペーストの配合だ。
ノズルと光源に関してはレーザービームをスポットからリングに変換する円錐レンズが要となるが、前回は不安定だったノズルが今回の追加カスタムによって大幅に改良されていた。
レジンペーストにも大きな変化があった。今回はレジンに厚みを持たせるため石英ガラスが混ぜられている。さらに空気もしっかりと除去されたジェル状のレジンとなっている。
果たしてその結果はどうか。
端的に言えば、その帰結は機器の故障と、うーん、精度は上がったとは言え、やはり微妙な感じの出力だった。
ただ分かったこともある。FDM3Dプリンターでレジンを3Dプリントしようとすると、FDMの欠点とSLAの欠点が共に強調されるということだ。
やっぱり意味がなかったじゃないか、と笑うなかれ。パンにお米を挟んでみたらイマイチだった、ということをきちんと知るためには、一度お米サンドを本気で作ってみる必要がある。彼は人生の貴重な時間を使って、みんなのためにそれを証明して見せてくれたのだ。
最後に戦前の日本を代表する物理学者だった寺田寅彦の言葉を引いておこう。
「科学は、累々たる科学者の屍の上に築かれている」