
「3Dプリンターは万能マシーンではない」——ハッカーが語る3Dプリント技術の限界
3Dプリンターを「できないこと」から考える
SK本舗ではこれまでに3Dプリンターの最新技術やその可能性について様々な角度から取り上げてきた。日々更新される3Dプリンター関連のニュースを追っていると、あたかも3Dプリンターに不可能なことなど、もはや世界には存在しないのではないだろうかと、そんな気持ちにさえなってくる。
そんな中、先日、ある挑発的なタイトルの記事がリリースされた。掲載元は「HACKADAY」というハッカーのコミュニティメディア。そして問題の記事のタイトルは「3D PRINNTERING: THE THINGS PRINTERS DON,T GO」、要するに「3Dプリンターにはできないこと」というものだ。
3Dプリント技術の凄さに目を奪われがちな昨今だが、確かに3Dプリンターはまだ「万能」とは言えない。公平性を保つ上でも「できないこと」という視点から3Dプリンターを考えてみることも重要だろう。
そこで、ここではその記事「3D PRINNTERING: THE THINGS PRINTERS DON,T GO」の内容を、まず要約的に追ってみることにしたい。
3D Printering: The Things Printers Don’t Do
なぜ3Dプリンターを過大評価してしまうのか
さて、この記事では冒頭から、「3Dプリンターにできることは実際にはかなり限られている」と述べられている。通常、人はできたことや成功したことを報告するものなので、できないこと、失敗したことなどの情報はあまり出てこない。それゆえ、3Dプリンターがあたかも完全無欠な万能テクノロジーであるかのように偏ったイメージを抱いてしまいがちなのだと語られている。
いまや3Dプリンターは「お肉」も作り出せる!
これは確かにそうかもしれない。実際のユーザーは別としても、メディアなどの情報だけを頼りに3Dプリンターに触れていると、あれもできる、これもできると、まるでドラえもんの四次元ポケットかのように錯覚してもおかしくない。同記事はそうした錯覚に陥らないためには、まず3Dプリンティングのメカニズムをきちんと理解することが必要だと説く。それによって、何ができて何ができないかが自ずとはっきりするだろう、と。
では具体的に現状の3Dプリンターにおける「できないこと」とはなんだろうか。
まだハードルが高い壊れた部品の代替品出力
同記事ではまず家庭用品の修理についてを指摘している。いわく、
「3Dプリンターはあらゆる壊れた部品を出力してくれるというイメージがあるが、実際には紛失してしまったり壊れてしまった部品の代替品を作ることは非常に困難だ。壊れた部分を撮影した写真からその欠損部分を補うことができるわけでもないし、既存の部品のコピーを素早く簡単にプリントする方法もない。」
といったことが記事には書かれている。
実際に、それは困難だろう。現状で、何か壊れた部品の代替品を3Dプリントした場合、それがシンプルな構造であれば自身で3Dデータから作成していくという方法もあるが、これは非常に高い技術を要するからだ。
また、オンラインで3Dデータを手にする方法もあるが、これはまだ圧倒的にデータが足りていない。無料データ配布サイトでたまたま求めているデータが用意されていたり、あるいは製造元が部品の3Dデータを公開していたりすれば、すぐに3Dプリントするということができるが、現状では一部のもの、一部の企業がそうした試みをしている程度である。
人気おもちゃの3Dデータを無料公開!? 大量生産大量消費を3Dプリンターが抑制する(SK本舗)
3Dプリントに適した形状と適さない形状
ここで「でも3Dスキャンがあるのでは?」と思った方もいるかもしれない。記事でもそこに触れられている。3Dスキャン技術は、オブジェクトをスキャンすることで3Dデータ化してくれる技術であり、この技術を用いれば、少なくとも部品のコピーは簡単に出力できるのではないか、と。
しかし、現状ではまだそこまで話は単純にはいかない。3Dスキャンの精度は日々向上しているとはいえ、今の段階では他の設計作業を支援するためのツールに過ぎないというのが、同記事の見解だ。そして、そのためにはやはりモデリング技術が必要される。精密部品ともなれば、必要な技術のレベルも高まる。
同記事ではさらに、3Dプリントに適した形状と適さない形状があると指摘している。具体的には、
・フラットな表面を持たない形状
・薄い壁を持つ形状
・他の箇所に強く接続していない突起物などを有する形状
などの特徴を持つ形状は3Dプリンターには不適合だとしている。もちろん、これは一概に不可能であるという話ではなく、3Dプリント以外の方法で制作する方がより適している、という話だ。
3Dプリンターの限界を超えて
さて、ざっと「3D PRINNTERING: THE THINGS PRINTERS DON,T GO」の内容を追ってみたが、どうやら同記事を通して主張されている「3Dプリンターにはできないこと」とは、3Dプリンターに不可能なことではなく、可能だが容易ではないこと、と捉えるのが良いかもしれない。記事内には「単純にスイッチを押せば、機械が完璧なパーツを出力するのをマルガリータをすすりながら待てばいい」状態が「理想」として設定されており、この状態にはまだ3Dプリンターは至ってないというのが論点となっている。
いやいや、そんなの当たり前だろ! という話ではあるんだが、とはいえ、「3Dプリンターはすごい!」という視点からでは、確かに見えないことも多い。また、現状における3Dプリンターの向き不向きを心得ておくことは、3Dプリンターを使いこなす上でも重要なことだ。
そして、おそらくは、ここで書かれていたような「3Dプリンターの限界」はいずれも時間が解決してくれるものだろう。今日の限界とは明日の課題のことである。話題となっているソフトバンクの孫正義氏のツイートを噛み締めながら、3Dプリント技術のますますの進化に想いを馳せようではないか。
進化しない者は既に退化している。
— 孫正義 (@masason) February 6, 2021
何故なら周りが全て進化しているから。