「SDGs」から考える3Dプリンター

大量生産大量消費をベースとした生活がもはや限界にきている。

そう言われるようになって久しい。最近ではSDGsという言葉も注目を集めている。これは「持続可能な開発目標」を意味する言葉だ。背景には20世紀を通じて行われてきた産業発展のための環境破壊、資源の無駄遣いへの反省があり、環境を不必要に圧迫することのない新しい開発モデル、産業モデルが、今この「SDGs」という言葉を一つの掛け声に世界中で模索されている。

 

 

しかし、そうとはいえ、なかなか私たちの暮らしを根本から変えることは難しい。「ものを大事に」とは言うものの、ものは使っていれば壊れるし、素材、造形が複雑化した商品が多い今日では、自宅で簡単に修理できるような商品自体がそもそも少ないということもある。

あるいは、同じ商品を長く使われすぎてしまうと、製造メーカーが困ってしまう。商品のモデルチェンジは技術変革によってのみ起こるものではなく、企業が従業員に給料を支払い、経営を持続していく上での必要から起こるものでもあるのだ。

すると結局、大量生産大量消費社会は続いていく。しかし、そのような形を続けていく限り、地球環境はますます悪化していってしまい、いずれは私たち自身の首を締めることになる。これは負のスパイラルだ。

こうした事態をブレイクスルーするための技術として、ここ10年、注目を集めているテクノロジーが3Dプリンターである。

 

 

言うまでもなく、3Dプリンターとは3次元の立体物をプリントすることができるプリンターである。すでに製造の現場には3Dプリンターが広く導入されており、個人、企業を問わず「ものつくり」のあり方を大きく変えつつあるが、この3Dプリンターがより普及することで、大量生産大量消費時代を終わらせることができるかもしれない、とも言われているのだ。

 

3Dデータ販売を通じた究極のオンデマンド生産

工業型の大量生産は、基本的に需要を超えて生産される。言ってしまえば、余分に多く作っておくことで、欠品を防ごうとする。すると当然、売れ残りが生じ、それらはやがて廃棄されることになる。必要を超えて作ることは資源の無駄遣いであり、さらにその余ったものを捨てるとなれば、その廃棄物がさらに環境へと負荷をかけることになる。まさに不合理なシステムだ。

その点、3Dプリンターであれば、必要なものを必要なときに必要なぶんだけプリントすることができる。あるいは、商品を「もの」としてではなくデータで販売することができれば、そもそも在庫という概念がなくなる。消費者が欲しい時に欲しいもののデータを購入して自宅で出力する。必要最低限の資源で、必要最低限な「もの」だけ作られる、そんな究極のオンデマンド生産が実現するかもしれないのだ。

 

 

これこそが3Dプリンターが大量生産大量消費時代を変えると言われている所以の一つなのだが、ただ、まだこの究極のオンデマンド体制が実現しているかといえば、そうでもない。商品のデータ形式による販売についても実践している企業はごくわずかだ。しかし、状況は徐々にだとしても動きつつある。

皮肉にもそのきっかけとなっているのは、今まさに猛威を振るっているCOVID-19のパンデミックだ。感染拡大を防ぐための人の移動や物流の制限は、各国の医療現場における医療器具不足を引き起こした。そんな中、不足している医療器具をそれぞれの現場で供給できるように、3Dプリンターの無料データがネット上で次々に公開されたのである。

 

マスク、フェイスシールド、イヤーガード、人工呼吸器、検査用綿棒、隔離病棟…、新型コロナウイルス感染症対策で脚光を浴びる3Dプリンター

 

公開されたデータは、たとえば、防護用のフェースシールド、マスク、人工呼吸器の部品、注射器のプランジャーなどで、いずれも医療現場に欠かせない器具である。それらを現場で出力するためのデータが各メーカー、各研究所、あるいは個人によって作成、拡散されたことによって、実際に現場は大いに救われたそうだ。これは3Dプリンターの可能性を、世の中に広く周知するきっかけになった。

物流にもエネルギーが必要だ。あるいは配達員などのエッセンシャルワーカーへの過剰な負担も今回のパンデミックであらためて問題となった。商品のデータ移動による地産地消の仕組みは、そうした観点からも合理的である。今後、拡充していくことはほぼ間違いないだろう。

 

壊れたおもちゃのパーツの3Dデータを無償提供

さらに、近年では壊れた「もの」の修理や、欠けてしまった部品の補填においても、3Dプリンターが大いに役立ち始めている。

とりわけ注目すべきはフランスはDagomaの取り組みだろう。フランスでは毎年40000個のおもちゃが捨てられているという現状があるらしく、おもちゃメーカーであるDagomaはそうした状況を改善すべくおもちゃのパーツのデザインデータを公開するという試みを始めている。対象となっているのは過去40年間で特に売れたおもちゃ部品のパーツ。人形であれば手、足、頭などの壊れやすく、欠けやすいパーツのデータを特設サイトにて無料公開し、それを各自が自宅でプリントアウトするという仕掛けだ。

 

 

もちろん、3Dプリンターが自宅にないという人もいるため、同社はソーシャルコミュニティ「Makers」を作成し、コミュニティの誰かにプリントアウトを依頼し、おもちゃを郵送できるような状況も整えている。壊れたから買い替えようではなく、少しでも長く使ってもらいたい。老舗おもちゃメーカーらしい、おもちゃ愛に溢れる取り組みだ。おもちゃ以外の商品にも波及していくことが期待される。

あるいは、こうした取り組みの一方で、投稿データを中心とする3Dプリンター用無料データ配布サイトも、ますます存在感を強めている。ジャンルは日用雑貨からインテリア、フィギュア、機械部品まで様々あり、充実度は日進月歩だ。さらにプリント素材や原料のエコ化も進んでおり、マイクロプラスチックがもたらす環境への負荷にも対応しつつある。

 

3Dプリンター用無料データ掲載サイト集

 

物質が飽和する時代に、あらためて物質とのサステナブルな関わり合い方が求められている。3Dプリンター技術にその鍵があることは間違いなさそうだ。

 

(文/広報エリナ)