みなさま初めまして、IKE(@IKE30704708)と申します。

1/144スケールを中心として趣味で小さい模型を作っております。 この度SK本舗さまよりお声を掛けて頂き、3Dプリンタのノウハウについて紹介させて頂くことになりました。

私自身は5年ほど前にブームに乗って3Dモデリングを始め、3Dプリント出力はDMM他の出力サービスを利用して来ましたが、 個人向けの3Dプリンタも高性能化/低価格化が急激に進んだ事もあり、昨年生まれて初めて光造形(SLA式)3Dプリンタを購入しました(2018/7月にPhoton、10月にShuffleを購入)。

最初の頃はなかなか思ったように造形されず、無事に造形された時はとても嬉しかった物ですが、一定のノウハウを得た後もより精細/確実な造形を求めて悩みは尽きず、楽しく試行錯誤しながら格闘する日々が続いております。それでも当初と比べるとSLAプリンタの特性、対応策についてある程度理解は深まりました。 今回は、ネットで余りまとまった記述が見つからないSLAプリンタの剥離抵抗と、より高精細な造形をするためのヒントについて、自分で使って初めて解った事や気づいた事、解決法が解るまで苦労した事を中心にいくつかご紹介させて頂きます。

1.剥離抵抗ってナニ?

剥離抵抗と書くと字面的に何だか難しそうな印象ですが、要す るにFEPフィルムに貼り付いたUVレジンをリフトアップで引き剥がす際の、剥がされまいとする力=FEPフィルムとUVレジンの接着力を指します。

基本的には剥離抵抗が小さいほど造形物やFEPフィルムに余計な負担が掛からず、少ないサポートでも変形が少なくて綺麗な造形が可能になると考えて良いでしょう。 剥離抵抗はSLA方式のキモと言える要素でも有り、それだけに理解が進めばプリンタ本来の性能を引き出す事に繋がると思います。

ひとまず、おさらい的にSLAプリンタの基本構造を確認してみましょう。

下の画像1-1はプラットフォームがレジンタンク内のFEPフィルム面へ降下する時の状態です。

この段階ではサポートとラフトはプラットフォームから造形物が落ちないようにぶら下がり、プラットへのラフトの接着力で 自重を支えている事になります。 サポートとラフトはプラットがUVレジン液に使った際、設定された積層ピッチ分のレジン液を挟んで造形物をFEP側に押し付ける役割も担います。

次の画像1-2はプラットフォームが所定位置まで降下し、UV-LEDランプが照射されている状態です。 マスク用のLCDがUV光線の透過/非透過を制御し、UVランプを必要な時間だけ点灯して透過部分のUVレジンを反応硬化させます。

UV照射時をもう少し詳しく見てみましょう。UV光線は下面から当たるので、レジンの硬化反応も下層から進む事になります。

安定して造形する為には適切なUV照射時間の設定が必要になり ます。 照射時間は少ないより多いほうが造形の成功率は上がるので、 最初は照射時間長めで造形し、徐々に減らして良いバランスを探るのが一般的です。 安全に振りすぎると過硬化となり造形が太ったり事後変形の原因となったりLCDの寿命もその分縮む事になります。

逆に硬化不足のケースもあります。積層ピッチがたとえ25umと言う僅かな厚みだとしても、硬化はFEP側から進みます。照射時間が足りない場合はプラットフォーム側の硬化が不十分で接着力足りず、プラットフォーム上昇時にFEPフィルムから剥離されずにそのまま残ってしまいます。

こうなった場合、次のサイクル以降はプラットフォームが積層ピッチの厚み分上がってしまうため、これ以後のスライスデータは硬化不足で造形されず、FEPフィルムに固着したレジン層も以降のUV照射で硬化過多の状態となるのでフィルムを痛める原因にもなります。 レジンによっても変わりますが一般に積層ピッチが増えると照射時間も増やさなければならず、積層ピッチを広げすぎるとUV 光線が上層まで十分に届かず硬化不足で造形不良となります。

下の画像1-3はプラットフォームの上昇時を描いたものですが、剥離抵抗が問題になるのはこの段階です。 UV照射で硬化したレジンはFEP表面(と造形物の最低面)に文字通り接着する事になります。

・・・という事は、ラフトやサポートには自重を支える(それも 勿論重要ですが)よりも、むしろFEPに貼り付いた造形物を引きか剥がす際に、歪み無くしっかり引っ張ると言う剥離抵抗に負けない強度が必要とされるわけです。使い始めの頃は造形中にFEP面から剥離する際の「ベリッ」と か「ピンッ」と言う音を聞いて、調子悪い? とか壊れた? と心配になった程ですが、今では脱落しないで造形されている安心のサインとなりました。 ネットに上げられた失敗画像を見ると、剥離抵抗への対策が足りず、サポートの密度/強度不足が原因と思われる造形不良、変形などが多いと感じます。

FEPフィルム自体にも表面にテフロン加工をするなど剥離抵抗を少なくするための様々な工夫が凝らされていますが、SLA式3Dプリンタの要とも言える構造なのでこれに関しては今後も劇的な改善は望めないのではと思います。

2.剥離抵抗とサポート形状

一応無事に造形出来ているが(何故か)一部ディテールが変形しているとか、(何故か)特定のディテールが時により上手く造形できたり失敗したりする、サポートが接続部や途中で破断する、などの場合はサポートの数や強度不足が原因かも? と疑ってみて下さい。

スライサソフトのオートサポートに任せっきりだったり、何となくその時の気分でパラメーターを弄って切り抜けてしまうと根本的な解決に至らず、後々に同じ原因でより大きな障害ともなり得ます。 意図したものと違う造形結果になった場合には、たとえ改善が不要な場合でも造形物をよく見て原因を推定し、どうすれば改善出来そうか一旦整理して考える事は後の設計にとても役立つと思います。

ここではサポート不足による造形の不具合の例をいくつか上げてみます。

下の画像2-1は造形物の頂点にサポートがない場合です。 造形は常にサポートを起点に始まらなければなりませんが、この場合は孤立点から造形が始まるので硬化したレジン層が剥離されず、(上手く行けば)周りと繋がるまで平坦に造形されるか、 最後までFEP面に貼り付いたままになります。 特に緩やかな曲面や僅かな段差などでは拡大してみないと気づかない事も多く、スライサーソフトなどで注意深く確認することが大切です。

下の2-2の画像の場合は問題無さそうですが、段差外周の頂点にサポートが無い ため特に上側のエッジ部がシャープに造形されません。サポートを左右それぞれの頂点に追加して対策すれば大丈夫そうです。さらに造形物を傾ければサポートの追加は片側のみで良くなるかもしれません。もしくは目立たない面をラフト側に配置し、内側の凹部にテーパーを付けるなどすればサポートを増やさずに良好な造形が望めそうです。

下の2-3も問題なく造形されやすい形状ですが、サポート間の距離 が長く剥離抵抗に負けて硬化した層が剥がれたり、たわんだまま造形され続けるので表面が膨らんでしまう事があります。改善するにはサポートの数を増やし、密度を上げる、低粘度のレジンを使うなどが考えられますが、プリンタの構造が原因とも言え、ラフト側の水平面を歪み無く造形するのはかなり困難です。

また、サポートの密度をどれくらいにすれば良好な造形が可能 になるか?は、使用するレジンや造形ピッチによってかなり変わるので、感覚を掴む為にもそれなりの試行錯誤が必要となるでしょう。 2-1の様に斜めに配置することでかなり剥離抵抗の影響を減らせるので、その時の状況に応じて検討するのが良いでしょう。

2-4は少し複雑な造形の例です。 各レイヤー層ごとに剥離抵抗の大きさを見ると(図A~E)、BやC に対してDの段階で極端に剥離抵抗が増えることが解ります。このようにして造形中に剥離抵抗が限界を超えた場合、既に硬化済の細い/薄い部分に応力が集中するのでパーツやサポートの破断/ 変形の原因となります。 この不具合は比較的再現性が低く、条件が良い時は問題なく造形出来たり、破断箇所や変形の程度は毎回違うのが普通なので、「何故かたまに失敗する事がある」程度の認識で済ませがちです。

ひとまずプラットフォームから落下せずに最後まで造形出来てしまうとなかなかこの原因には気づきにくいので、上記の症状に思い当たる方はもう一度確認してみることをお勧めします。 基本的に繊細な造形や尖った形状の先端は下(LCD側)に向けて配置した方が良いのですが、それが無理な場合は、破断が起こ る箇所の周辺にサポートを増やして補強するか、いっそパーツを分割して負担の掛からない配置で造形する必要があります。

ここで剥離抵抗を少なくする基本的な方法として、モデルを中空にすることで剥離しやすくする方法を紹介します。これはモデル全体の軽量化とUVレジンの節約にも繋がるのでお勧めです。

この際あまり複雑な中空構造にしてしまうと硬化後の洗浄や内面の2次硬化が難しくなりますし、未硬化のレジンを内部に封じ込める形状にしないよう注意が必要です。 単に造形の向きを90°変えただけですが、これだけで必要なサポートの本数/太さを減らすことが出来ます。高さが増えるので 造形時間は増えますが、積層痕その他の要素と勘案してどちらがメリットが多いか検討する一助になると思います。 当たり前ですが剥離抵抗は一度に剥離する面積に比例するため、一度に硬化=剥離する面積をなるべく減らし、造形物やサポ ートに負担を掛けない設計を心がければ安定した造形が可能になります。

造形位置と剥離抵抗の関係も重要です。細かい話ですが造形位置によっても剥離抵抗は変わります。造形エリアに余裕が有れば、なるべくプラットフォームの端側で造形するようにすれば、特に細部の再現度を詰める際等には有効だと思います。

3.SLAプリンタの解像度と造形限界、積層痕

3Dプリンタ造形に精細さを求める場合、LCDの解像度と造形ピッチが性能を決める一番大きな要素だと思います。

解像度と造形ピッチを理解すれば積層痕の出方をある程度コントロール出来ますが、さらに剥離抵抗も考慮すると詳細なディテールの再 現度が上がる事に気づいたのでついでにご紹介したいと思います。 まずはおさらい的にLCDの解像度について簡単に触れます。

3-1 積層痕とピクセル痕

光造形プリンタの最大造形サイズですが、多くがスマホなどの 2K液晶パネルをUV光線マスク用のLCDとして流用しているので、底面の造形エリアが120mmx60mm程度、高さ150mm程度が主流となっています。

Phrozen Shuffle/XLを例に取るとXY面の1ドットの大きさは Shuffle=47μm(0.047mm)、XL=75μm(0.075mm)とありま す。(公式サイト調べ) 太めの髪の毛の直径が80μm(0.08mm)程度だそうですから、解像度の荒いXLでも肉眼で1ドット(画素=ピクセル)を確認するの は不可能と言える詳細さです。 造形ピッチが一般的には25~50μmとすると、LCDの解像度 (XY平面)はZ方向よりも荒いか、良くて同程度という事になります。

造形物の表面に見える年輪状や細いスジ模様は一般に積層痕と呼ばれていますが、文字通り積層ピッチによる積層痕と、LCDのドットによるピクセル痕とも言うべき2種類が混在しているので、突き詰めるならこれらは分けて考える必要が有るのではないでしょうか。なかなか上手く説明しにくいのですが模式図と実際の例を上げてみます。

左の球体を例に取ると、積層痕はZ軸の上下端付近で最も目立ち、ピクセル痕はX,Y軸に垂直に近い面ほど目立つ事になります。球体の場合は周囲4箇所にピクセル痕が目立つ結果になります。 中央の車両のモデルでは前部の緩斜面で積層痕が目立ち、右のノズルのモデルでは垂直に近い斜面でピクセル痕が目立っています。

積層痕を目立たなくするには積層ピッチを狭くする(=積層痕を 増やす)のが一般的ですが、XかY軸を中心にモデルを回転させ て傾ければ積層ピッチを狭くするのと同じ効果が期待できます。造形ピッチを狭くすると造形時間も増えますが、モデルを傾けるとサポートの再設計が必要なのでどちらの方法を取るかは悩ましい問題でしょう。

そしてこの方法はピクセル痕に対しては効果がありません。ピクセル痕を目立たなくするにはZ軸を中心に30~45°程度回転させる事で同じ様な効果が期待できます。Z軸中心に回転してもサポートは変更しないで済むので、最良の配置角度を探るなど気楽に試せる方法と言えます。

問題となる造形痕がどちらの原因に拠るのか、造形物を観察して推測するのは重要だと考えます。原因が判ればX、Y、Z、ど の軸を中心にモデルを傾ければ有効なのか対策が取れると思います。

3-2 詳細造形の限界

造形可能なモデルの最小厚みや細さ等は主に積層ピッチとLCD解像度の2つに依りますが、今回はLCDの解像度にフォーカスして検証用のモデルを作り、テスト造形して確認してみました。 Shuffleを使い始めてから今まで、何となくの経験から0.3mm 以上の丸棒や薄板はサポートさえ適切に配置すればどんな角度でも造形できると判断しています。しかしそれ以下になると角度によってちゃんと造形されたりダメだったり、その都度太さや厚みを増すなどして対処してきました。

しかしShuffleの場合LCDのピクセル1辺の大きさは0.047mmと いう遥かに小さい単位です。仮にLCDのスペック通りに造形できるとしたら0.1mm以下の薄板や丸棒が造形可能なはずですが、もちろん実際には造形不可能です。おそらくLCDのコントラスト性能やUVレジンの物理的な硬化特性、その他諸々の理由 でスペックより一段下のレベルで造形される事になります。

では実際にはどれ位の細さ/薄さまで造形可能なのか、角度を変 えれば結果は変わるのか、テスト用モデルで確認してみまし た。 私は主に飛行機やミリタリー車両のモデルを造形しているの で、使う機会の多い3種類のディテールでそれぞれ厚みと角度を 変えたモデルを作り、無印Shuffleで0.25umピッチ、Anycubic のグレーレジン使用、照射時間9秒で造形しています。

A 平板のスリット状のパーツ

厚みが0.1~0.3mmまで0.05mm刻みで5種類の薄板を作り、厚 みの2倍の間隔で並べてそれぞれ垂直と水平、45°の角度に配置 したモデル。板の出っ張りはすべて0.5mmです。


造形してみて驚きましたが0.1mm厚でも造形出来ています。 0.2mm以下は造形できないと予想していたので嬉しい誤算でした。特に垂直面と45°に傾けた面の薄板は埋まらずに綺麗に造 形されています。凹部は埋まりがちになるので敢えて板厚の2倍 の間隔で配置したことも綺麗に造形できた要因と言えそうです。

B リベット/丸棒状のパーツ

平面から垂直に突き出す丸棒を4本配置し、同じく角度を変えて 配置したモデル。丸棒の太さは0.1mmから0.05mm刻みで 0.3mmまでと0.4mmの5種類、丸棒の高さは全て1mmとしまし た。ラフト上の数字がずれていますが右端が0.4mm、右から二 番目が0.3mmになります。


 

これも予想に反して面によって造形の限界が変わっていました。水平面から立ち上がる丸棒は0.3mmが限界ですが、45°面 では0.25mm、垂直面から突き出すなら0.15mmまで造形され ています。後で述べますがこの結果からUVレジンの硬化面積が 一定以上でないと上手く造形されないのでは? と推測します。

C 網目/枠付きメッシュ状のパーツ

使用頻度としてはあまり多くありませんが細かさが命のメッシュパーツ、いい機会なのでどこまで細かいメッシュが造形できるのか試してみました。メッシュは丸ではなく正方形の角断面で、1辺0.1mmから0.05mm刻みで0.3mmまでの角棒を直交させて外枠を付け、さらに剥離抵抗を考慮して45°回転させました。これも角棒同士の間隔は太さの2倍にしてあります。外枠の断面は0.5mm角で外形3.7mm、枠の内寸は2.7mmx2.7mmとなっています。 水平では造形が困難そうなので垂直と45°に寝かせたモデルを造形してみました。


ここでも予想以上の結果で、垂直配置では0.2mmメッシュまで 造形され、45°配置だと0.15mmのメッシュまでもが綺麗に抜けて造形されています。Shuffle恐るべしと言うか、もっと早い段階でテストモデル作っていれば色々攻められたのになぁと後悔してみたり。

これらの結果と先のLCDの解像度の話を合わせて考えると、特に精細な造形を目指す際には形状自体の厚みや太さの寸法よりも、UV照射で硬化させる面積=スライス時の断面積を考慮する必要があるのではと推測しています。 無印ShuffleのLCDピクセルと極細の丸棒の断面を例に取りますが、下図の様に0.1mm径の丸棒は断面積がおよそ4ピクセルですが、0.3mmになると30ピクセル以上になります。

そして同じ径の丸棒でも45°に傾ければ断面積は結構増えます。

確実に造形するには最低でも13~15ピクセル以上の断面積が必 要なのではと推測しています。さらにこのような細かい造形の場合は剥離抵抗よりも照射の断面積を大きくするよう心がけたほうが良いと考えました。この考えは先のAで0.1mm板が造形できた事、Bで垂直面から伸びる丸棒が一番細くまでされた事、Cで45°傾斜の0.15mmメッ シュが造形出来た結果とも矛盾しません。

おわりに

以上、長くてまとまりのない内容となってしまいましたが、展 示会などでよく聞かれたり盛り上がったハウツー話題を中心に ご紹介させて頂きました。 1年ほど使ってみてSLAプリンタへの理解は結構進んだと思いま すが、各社レジンの比較や洗浄方法、Shuffleの改造など試したいことは沢山あるので、引き続き楽しみながら勉強していきたいと思います。

記事中に間違いや質問などあるかと思います、気になる点があ りましたらお気軽にDM下さい。 この中に一つくらいは役立つ情報があります様にと祈りつつ、 3Dプリンタユーザーの素敵な造形制作の一助になれれば幸いです。

著者名:IKE
Shuffle& photonユーザー。1/144スケールを中心として趣味で小さい模型を制作している。
fusion360 & 3Dprintのマニュアル本執筆(2018)
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