
最新のオーバーハング対策はまさかの「水中」3Dプリント!?
3Dプリンターユーザーを悩ませてきたオーバーハング問題
3Dプリンティングを成功させる上で避けては通れない関門の一つに「オーバーハング」をどうするかという問題がある。
オーバーハングは元々は二階のせり出し部分を意味する建築用語。3Dプリンティングにおいては底面積より上部が大きい場合の宙空にせり出した部分を指してそう呼んでいる。
ご存知のように、何もない宙空状にいきなり樹脂を置くということはできない。オーバーハング問題とはつまり「空中でオブジェクトをいかに造形するか」という問題であり、これまでその方法については様々な形で考察され、また実践されてきた。
これまでの一般的な解決方法としてはサポート土台の設置だ。オーバーハングが問題となるのは、そこが宙空だからである。ならば底面に接した土台を設け、オーバーハング部分が宙に浮かない状態にすれば造形中に崩れてしまうことを防ぐことができる。その上で出力後、そのサポート部分を取り除くことで、問題が解決するというわけだ。
この方法は現状で最も有力な方法であり、実際にそのようにしてオーバーハングを克服している方も多いだろう。ただし、もちろん欠点もある。
まず土台除去は非常に手間なのだ。かつ土台除去の際にオブジェクトが壊れてしまう可能性もある。特にオーバーハング部分が細かい場合は、そのリスクが高まる。現状においては最も有力な方法であるとはいえ、完璧な方法かといえば、そうとは言い切れないというのが実情だ。
その他、オーバーハングの解決方法としては、造形物の向きを変えること(面積の広い側を底面とする)や、そもそもオーバーハングしないようなモデリングをするなどが挙げられるが、おわかりのようにこれらの方法にも限界がある。つまり、オーバーハング問題については目下、そのよりよき対処方法の到来が待望されているところなのだ。
水中で3Dプリンティングすることで冷却を強化
では、サポート土台に変わるオーバーハング対策の可能性はどこにあるのだろうか。
今回はその一つの実験例を紹介したい。
3Dプリント系YouTuberの「CPSdrone」がオーバーハング対策において注目したのは「冷却」だ。オーバーハング部分が崩れてしまうのは、樹脂の冷却が間に合わないという点に原因がある。だったらこの冷却を強化すればいいのではないか。そして、何かを冷却する上で最適な空間といえば「水中」だ。
かくして「CPSdrone」は3Dプリント空間を水中にすることで、このオーバーハング問題を克服することにチャレンジした。果たしてその結果はどうだったのだろうか。
動画を見る限り、少なくともオーバーハング部分に関してはかなりうまくいってるように見える。水の力を借りて高速に冷却されることで、かつその浮力にサポートされることによって、オーバーハングは崩落を免れ、サポート土台なしでも無事に造形されている。これはすごい大発明だ。
すると、今後3Dプリンターは水中プリントが主流になるのだろうか。だとすれば、これは3Dプリンター界における大革命である。
と、勢い余ってしまったが、当然ながら水中3Dプリントには欠点も多い。今回「CPSdrone」は水の伝導率を抑えるために脱イオン水をしよう、開いた接続部分も密閉し、一部の部品は水によって腐食されにくい部品に交換されている。しかし依然として、ステッパーのベアリングは腐食可能性を回避できていない。
また、部分的に冷却しすぎてしまう可能性を防ぐためにホットエンドをシリコンブロックで包み、またコントローラーボードも移植。試行錯誤の末、テストはひとまずうまくいっているように見えるが、メンテナンスはかなり大変だろう。
また水中での造形のため層の密着性は致し方なく低下してしまう。これに対しては「CPSdrone」は水を加熱することで対応できるのではないかと推測しているが、現段階でオブジェクトの見た目はあまり美しくなっていない。
こうした問題点を抱えつつも、しかし、この実験が明らかにオーバーハング対策の可能性を押し広げているということは間違いない。どうやら次は市民プールを使っての実験を試みようとしているようだ。
思えば、生命は海中で誕生している。そのことから、最近では生命の原点に立ち返り、水中出産を希望する妊婦さんも多いらしい。ならば3Dプリンティングだってやがては水中に回帰していったとしてもなんら不思議はないだろう。
いずれにしても、こうした意欲的な実験は応援したい。「出来ない」を「出来る」へと導く鍵はそこにしかないのだから。