
過度な乱獲、絶滅危機、困難な養殖……「それでも僕はうなぎを食べたい!」Steakholder Foodsの「3Dプリントうなぎ」が日本のうなぎ愛に応える
土用の日にはうなぎのホクホクの白身が欠かせない
日本人にとって「ちょっと特別な日に食べるおめでたい食べ物」はいくつかあるが、とりわけ「うなぎ」は特別なご馳走としての地位を不動にしているように思う。
土用の丑の日にうなぎを食べる習慣は季節の変わり目による滋養強壮として古くから日本に定着している。そもそも土用とは五行思想を起源に持つ暦の計算に基づくもの。五行思想の背景にあるのは、かつて王様が4人の子どもたちに東西南北、春夏秋冬、青赤白黒をそれぞれ当てがったが、王様の死後に5人目の子が誕生、兄弟喧嘩で世の中が乱れてしまい、そこにある偉い博士があらわれ、5人目の子には東西南北の中央を、春夏秋冬からは各18日ずつ土用を、色は黄色を受け持つことにすることで争いが治ったというお話だとも言われており(ちょっとしたトリビアです)、つまり世界を4つに分けた時に分けきれなかった余りの特別な部分。
そうした特別な日にはやっぱり美味しくて滋養も豊富な「うなぎ」をいただきたい。日本に生まれたからにはなおのことそう思ってしまうというものだろう。
実は世界でもうなぎは人気があり2022年には世界のうなぎ市場は総額43億ドルともなっている。あのホクホクで柔らかな白身を思えば当然の結果だが、一方でウナギ市場は、数多くの課題に直面している。現在、その高い需要によるうなぎの乱獲が行われた結果、さまざまなウナギ種が絶滅の危険性に瀕しており、そしてそもそもうなぎは養殖が困難であるという事情もあいまって、伝統的なうなぎ産業は瀬戸際に追い込まれているのだ。
うなぎの個体数を保護するために課せられた規制のハードルは、うなぎ生産者にとってさらなる障害を生み出し、その経営がますます困難になっている。さらに、不法密漁と闇市場取引という根強い問題もあり、特に日本のようなうなぎの強い食文化を持つ国では、この問題はかなり深刻化してしまっている。
確かにうなぎを絶滅させてしまったら元も子もない。生態系のバランスを維持することは現代人の大きな課題でもある。すると、土用の丑の日に気軽にうなぎを食べれた時代を懐かしみながら、2020年代を生きる私たちとしてはエコに禁欲的に生きる道を模索するしかない…だなんてことは分かっている。分かっているのだ。分かっていて、それでもなお、私たちは「うなぎを食べたい」。この気持ちをどうすれば良いのだろうか。
ついに完成した「3Dプリントうなぎ」その行方は
実はそのジレンマを解決してくれるのは3Dプリンターかもしれない。現在、3Dフードミート産業を牽引するSteakholder Foodsは、天然ウナギに代わる革新的で持続可能な代替品を提供し、救世主となることを目指している。そう、3Dプリント「うなぎ」がまもなく販売されようとしているのだ。
画像提供/Steakholder Foods
実はすでに本欄ではこのニュースを紹介したことがある。
ワンコインで「うな重」が食べられる日は近い?|Umami MeatsとSteakholderが開発する3Dプリント「ウナギ」
https://skhonpo.com/blogs/blog/3dunagi?_pos=2&_sid=2b326fec2&_ss=r
ちょうど一年前の記事になるが、この段階ではまだ3Dプリントうなぎは開発段階にあった。つまり、今回のニュースはそれがついに完成し、いよいよ販売する準備ができたことを伝えるものである。
画像提供/Steakholder Foods
すでに公開されている写真を見る限り、3Dプリントうなぎは「本物のうなぎ」とビジュアル的には何ら遜色はない。しかし、まず発売されるシリーズは全て植物由来、つまりオルトシーフードである。もちろん、食感にはかなりこだわっているようだが植物由来と聞いてガックリされてしまった方もいることだろう。ご安心いただきたい。Steakholder Foodsすでに培養ウナギ細胞を組み込む計画があることを明かしてくれている。
さて、気になるのはいつ販売されるのかということ。どうやら現在まさに業界と連携し商品化の戦略を立てていることだという。果たして、この3Dプリントうなぎが「うなぎ通」である日本人の舌を納得させるものとなっているのか、乞うご期待だろう。