もはや薬もオーダーメイドする時代へ!? ——パーソナライズ化する医療と3Dプリント医薬品の現在
3Dプリンターが可能にする医療のパーソナライズ化
3Dプリンターの造形技術は日常で使用する道具や玩具、嗜好品ばかりではなく、私たちの体内に入ってくる食べ物、そして私たちの体を内から治す医薬品にまで及んでいる。今回はそんな3Dプリント医薬品の最前線を少し覗いてみたい。
様々な医薬品の中でも、特に3Dプリンターがその存在感を増しているのは、錠剤タイプの医薬品製造においてだろう。これは単に従来の医薬品製造を3Dプリンターが代替しているという話に止まらない。錠剤3Dプリント技術の発達によって、患者それぞれに最適化した錠剤の製造をスムーズに行うことが可能になろうとしているのだ。
たとえば現在、なんらかの病気の症状がある場合、まずは病院に行き、医師の診断を受け、病状に応じた処方箋を書いてもらうことになる。その後、薬局へと行き、その処方箋を見せることで、必要な薬を複数処方してもらうことができるというのが一般的な流れだ。しかし、最新の3Dプリント技術を用いれば、この患者それぞれに異なる複数の医薬品の有効成分を一つの錠剤にまとめて出力することができ、これが医療のパーソナライズ化を推し進めると言われているのである。
「M3DIMAKER」が出力する「ポリピル」とは?
その技術を提供しているのが、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのスピンアウト企業であるFabRx Ltdだ。2020年4月、FabRx Ltdはパーソナライズされた医薬品製造のために開発された初の医薬品用3Dプリンター「M3DIMAKER」の発売を発表した。
この「M3DIMAKER」は、Printletsと呼ばれる3Dプリント錠剤を製造するために設計されており、患者に必要な複数の有効成分を組み合わせた錠剤「ポリピル」をプリントすることができる。要するに、自分のためだけの薬をその都度、作ってくれるというわけだ。
ポリピル
これまでのように既成の医薬品に頼る場合、病状、病気の種類によっては処方される医薬品の種類が膨大になってしまうこともある。また、薬にはそれぞれ服用量や服用期間が定められているため、えてして患者にとってその煩雑さは負担になりがちだ。しかし、この「M3DIMAKER」とパーソナライズされた医薬品「ポリピル」があれば、可能な限り、煩雑な服用スケジュールを簡易化することができると言われている。
もちろん、セキュリティも抜かりがない。「M3DIMAKER」は専用のソフトウェアプラットフォームによって制御されており、薬剤師や臨床医が指紋アクセスによって、操作することになる。要するに、アクセス権を持たないユーザーは操作することができない。品質管理に関しても、欠陥品検出のカメラ監視機能などが搭載されているなど、万全が期されている。さらにプリントの速度も優れており、アクセス権者が用量などを調整し出力スイッチを押せば、およそ8分ほどで1ヶ月分の薬剤をプリントすることができる。
この「M3DIMAKER」が普及すれば、自分の症状に特化した薬剤が速やかに、かつ安価で入手できることになるだろう。不要な有効成分は最初から排除できるため、患者にとっての安全性、安心感も高まる。3Dプリンターによって、今、医療は大きく変わろうとしているのである。
3Dプリント技術を使った新たな医薬品のプラットフォーム
3Dプリンターの活躍は医療のパーソナライズ化に止まらない。2020年12月に約15億円の資金を調達した中国の「Triastek」社もまた、3Dプリンターを用いる医薬品を開発している。この「Triastek」が目指しているのは、3Dプリント技術を使った新たな医薬品のプラットフォーム構築である。
「Triastek」によれば、3Dプリント技術によって、医薬成分の放出場所・時間・速度を正確にコントロールできる上、医薬品の放出方法を柔軟に組み合わることで薬効を高め、副作用を低減することができるという。とりわけ、Triastekが開発した製剤設計法「3DFbD」は、医薬品開発の効率と成功率を向上させており、この技術を用いた質の高い医薬品の大規模生産ラインを現在建設準備中とのことだ。
コロナ禍においては医療機器の出力などで活躍をした3Dプリンターだが、今後は薬品製造においてもプレゼンスを高めていくことは間違いない。医療体制の逼迫が叫ばれる昨今、製薬システムの合理化は現場で働く医師や薬剤師にとっても救済となるはずだ。今後の医薬品3Dプリント技術の進展と普及に期待が寄せられている。