折り紙×3Dプリントが開くデザインの新境地
3Dプリンターで製作された折り紙デザインが注目されている。ヘッダー画像は海外クリエイターのマシュー・リム氏が手掛けたモデルだ。伝統的な折り紙の技術を取り入れ、平面に印刷した部品を折り曲げて立体化している。こうした「3Dプリント折り紙」のアプローチが、今デザインやエンジニアリングの分野でじわじわと注目され始めている。
ここ10年ほど、折り紙(紙を切り込みながら折る「切り紙」を含む)と3Dプリンターの融合は、技術者やデザイナーの間で注目されてきました。紙を折って複雑な形状を生み出す折り紙の原理を、樹脂やプラスチックの3Dプリントに応用すれば、新しい動く構造部品や効率的なパーツ設計が可能になります。折り紙は平らな状態から始めて折ることでかさ高い立体を作るため、この手法を使えば3Dプリントでも、まず平面状に素早く部品を成形し、それを折りたたむことで大きく複雑な形を安価に生み出せるのです。
例えば、NASAでは六角形の折りたたみ構造の「宇宙布」を3Dプリントで実現する試みがあり、他にも折り紙に着想を得たロボットアームや医療デバイスなど、さまざまな研究プロジェクトが登場しています。しかし、デスクトップ型の3Dプリンター愛好家たちのコミュニティでは、折り紙的なアプローチはあまり一般的ではありません。折り紙風の見た目を模倣した造形物は散見されるものの、実際に折り畳める構造としての活用例はごく限られていたのです。
3Dプリント折り紙に挑むマシュー・リム氏
そんな中、折り紙×3Dプリントの可能性を本格的に探求している一人のメイカーが注目を集めています。それがYouTuberとして活動するマシュー・リム氏です。
リム氏は自身のYouTubeチャンネルで、折り紙の折り目パターンを組み込んだ薄いシート状の3Dプリント作品を数多く公開しており、平面から折り上げることで美しいランプやギミック満載のガジェット、さらには立体映像ディスプレイのような独創的モデルまで作り出しています。一見シンプルな形状にも細部まで研究と工夫が凝らされており、その完成度の高さに驚かされます。

しかし、こうした地道で凝った制作は、現代のSNSでバズを狙う手法とは対極にあります。リム氏のYouTube動画は数万~数十万回程度の視聴を集めていますが、派手な企画や大量生産的なコンテンツに比べれば再生数は控えめ。
それでも彼は、自らのペースでじっくりと作品作りに取り組み、独創的なアイデアを形にし続けています。そして、その活動を支えるために活用しているのがPatreon(パトレオン)というクリエイター支援プラットフォームです。リム氏はPatreon上で支援者向けに、自身がデザインした折り紙モデルの3Dデータ一式(STLファイル、CADモデル、プリント設定情報や組み立てガイドなど)を提供しています。だいたい数千円程度の料金で作品ごとのデータパックを購入でき、月額制プランで定期的に新作データを入手することも可能です。このように少数の熱心なファンに支えられながら、自分の好きなニッチ分野を追求するスタイルは、一つの新しいビジネスモデルと言えるかもしれません。
リム氏が最近発表した作品には、双曲放物面を活用した薄膜構造「ハイパーボリック・パラボロイド」や、放射状の折り目でコンパクトに畳める「サテライト・フラッシャー」、格子状の折り目が踊るように動く「ウォーターボム・テセレーション」(水爆弾折り紙のタイルパターン)、ばねのように弾性を持つ「クレスリング・スプリング」などがあります。さらに、伝統的な折り紙の鳥であるパハリータ(スペイン語で“小鳥”を意味するモデル)の3Dプリント版など、ユニークなラインナップが揃っています。これらはいずれも折り紙特有の折り畳み原理を活かしたもので、STLデータからプリント設定、組み立て方まで情報が網羅されており、作り手にとって至れり尽くせりの内容になっています。現状ではこのPatreon経由の活動から大きな収益が出ているわけではないようですが、リム氏の試みは他のクリエイターたちを触発するかもしれません。
実際、海外のテーブルトップゲームやミニチュアフィギュアの世界では、デジタル造形データのサブスクリプション提供によって毎月数千ドル(数十万~数百万円規模)を稼ぐクリエイターも出てきています。しかし折り紙×3Dプリントのように比較的新しく多彩な分野で同じことをするのは簡単ではありません。だからこそ、リム氏のような先駆者の存在が貴重なのです。

折り紙×3Dプリントの未来
リム氏のデザインは、例えば折り畳み式のケースや収納ボックス、携帯しやすいライトやギミック玩具など、様々な製品への応用の可能性も秘めています。伝統的な折り紙の知恵と3Dプリントの技術が交差するところには、まだ誰も開拓していないアイデアの宝庫が広がっていると言えるでしょう。平面にプリントした安価な部品を組み合わせて、必要に応じて形を変えられる大きな構造体を作る――そんな発想は新しいビジネスの種にもなり得ますし、折り紙の原理が難しい工学的課題を解決する鍵になる可能性もあります。
折り紙と3Dプリントという、一見異なる伝統と先端技術の融合が生み出すクリエイティブな潮流。マシュー・リム氏の活動はその序章に過ぎません。この分野がこれからどのように発展し、私たちのデザインやものづくりの常識を変えていくのか――未来への想像がふくらみます。みなさんもぜひ、この新たなデザイン革命の行方に注目してみてください。
