3Dプリンター×レーザー調理でフルコースを実現!コロンビア大学研究チームの挑戦
3Dプリンターで食品を成形し、レーザーで焼き上げてフルコース料理を完成させる――まるでSF映画のような実験が米コロンビア大学で行われました。研究チームは前菜からデザートまで3品揃ったディナーを作り出すことに成功。その料理は見た目も食感も、従来の調理に迫るクオリティだったとのこと。フード3Dプリンティングの最前線を紹介します。
驚きの3Dプリント料理フルコース
今回試みられたのは、3Dプリントとレーザー加熱で調理されたフルコース料理です。使用した食材は日常的に手に入る14種類で、以下の3品が提供されました。
- キッシュ風タルト(前菜) – 卵や野菜を使ったタルトで、まるで本物のキッシュのような見た目と味わい。
- カリフラワーピザ(メイン) – カリフラワー生地のヘルシーピザで、チーズやソースもしっかり焼かれています。
- キーライムパイ(デザート) – ライム風味の爽やかなパイで、表面の焼き色まで再現されています。
どの料理も、一見すると普通にキッチンで作られたかのような仕上がりです。3Dプリンターで材料を細かく積み重ね、その場でレーザー照射によって焼き目や食感をつけることで、フルコースの一皿一皿を完成させたとのことです。
「本物の食感」再現の難しさ
フード3Dプリンター自体は以前から存在しますが、「本物の食感」を再現することが大きな課題でした。従来の3Dフードプリンターでは、ペースト状やピューレ状の材料を層状に積み上げて形を作ります。しかし調理工程が難点でした。例えばオーブンで焼こうとすると、食材全体が一様に加熱されてしまい、細かな部分ごとの火の通し加減を調整できません。その結果、見た目や歯ごたえが単調になりがちで、手作りの料理のような食感からは程遠かったのです。
今回のコロンビア大学のチームは、この「食感のギャップ」を埋めることに挑戦しました。ポイントは調理プロセス自体をデジタル制御すること。印刷と加熱を別々ではなく一体化することで、素材ごと・部位ごとに理想的な調理加減を追求する。そのための鍵となったのがレーザー調理です。
レーザー調理が可能にした精密加熱
研究チームは3Dプリンターにレーザー調理機能を組み込み、印刷しながら同時に加熱する新手法を開発しました。レーザー光の波長や出力を調整することで、印刷した食品の特定部分だけをピンポイントに加熱できます。
例えば、タルトの表面だけを香ばしく焼き色を付けつつ、中は柔らかく仕上げる、といった芸当も可能です。複数の波長のレーザーを使い分けることで層ごとの火の通り具合を精密に制御し、狙った食感(サクサク感やしっとり感など)を実現しました。
レーザー調理の利点は、食品の形を保ったまま部分的に調理できることです。従来のオーブンでは全体が加熱されるため形が崩れたり乾燥しすぎたりする恐れがありますが、レーザーなら狙った部分以外は加熱しないため、見た目の美しさも損ないません。その結果、3Dプリントで細かく造形した料理に、人の手で作ったような質感と風味を与えることができたそうです。
前回はデザート、今回はフルコース
実はこの研究チーム、以前にも7種類の材料を使った3Dプリントのデザート作りに成功しています。2023年にはピーナッツバターやジャムなど7つの食材ペーストを重ねてチーズケーキを再現し、レーザーで焼き目を付けて仕上げる実験を行いました。しかし前回は甘いデザート一品のみ。そこで今回はスケールアップを図り、素材も倍の14種類に増やして前菜・メイン・デザートのフルコースに挑戦したのです。

フルコースを成立させるには、前菜や主菜、デザートそれぞれ異なる食品を調理する必要があります。例えばタルト生地とピザ生地では必要な火加減も異なりますし、デザートではまた別のテクニックが求められます。そうした多様な料理を一度に3Dプリント&調理できたことは、フードテック分野でも画期的な一歩と言えるでしょう。
前回のデザート実験が「材料を積層して形を作る」ことに重点があったのに対し、今回は「どう焼いて美味しくするか」まで踏み込んで達成。大きな進展です。
栄養管理とパーソナライズの可能性
今回の成果は単に珍しいガジェット的な話題にとどまりません。研究チームは、デジタル技術を使った調理が人々の食生活に新たなメリットをもたらすと強調しています。
調理プロセスがデータで管理できるため、何をどれだけ使ったかがすべて記録可能です。言い換えれば、カロリーや栄養素の情報を正確に把握・追跡しやすくなるということです。自分が食べているものの中身がはっきり“見える化”されることで、より意識的な食習慣につなげられるでしょう。
さらに、料理をデータ化してしまえば個々人に合わせたレシピのカスタマイズも容易になります。たとえば糖質制限中の人向けに糖質を抑え高タンパクな材料だけで料理をプリントしたり、アレルギーを持つ人のために特定の成分を除いたメニューを用意したりと、一人ひとりのニーズに合わせた“オーダーメイド食の提供にも役立つはず。開発者のブルティンガー氏も「ソフトウェアと料理を組み合わせることで、信じられないほど個人に合わせた調整が可能になる」と述べており、将来的なパーソナライズ栄養の可能性に言及しています。
まだ試作段階の技術ではありますが、キッチンにデジタル製造の発想を持ち込むこの取り組みは、私たちの食卓の未来像を大きく塗り替えるポテンシャルを秘めています。栄養管理された自分専用のメニューをデータでやり取りし、3Dプリンターとレーザーで“調理”する未来の食卓――そんな光景が現実になる日も、そう遠くないのかもしれません。
Photo Credit: Jonathan Blutinger Courtesy of Columbia Engineering
