3Dプリントされたボディを持つ猫型未来ロボット「ディアナ」|人間は機械を愛玩できるか?
あの「aibo」から20年、ペットロボットは今
ペットロボットと聞いて、真っ先に思い浮かべる存在といえば「aibo」だ。
ソニーが1999年に発表し、一世を風靡したロボット犬であるaiboは、AI時代を先取りする形で世界に発信され、技術大国日本の真骨頂を見せつけた。
その後もaiboを超えるほどの話題となったペットロボットは世界から出てきていない。もちろん当時と今とでは技術力に関しては雲泥と言っていい差があるが、とはいえ、ペットを代替するようなロボットとなると、なかなかどうしてその開発は困難を極めているようだ(aiboもまた幾度もヴァージョンアップを重ねている)。
ところで、aiboは犬型のロボットだったが、ペット市場において犬と双璧をなす人気種といえば、ご存知「猫」である。
日本では2010年代、歴史上初めてペット頭数として猫は犬を追い抜き、栄えある人気ペットナンバー1の座を獲得している。人呼んで「猫の時代」。個人主義の強い現代人のライフスタイルには、従順だがそのぶん世話の焼ける犬よりも、気まぐれだが放っておいても特に問題のない猫の方が合っているという分析もあるほどだ(古谷経衡『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』参照)。
となると、想像せずにいられないのはロボット猫がいつ登場するのか、ということだが、なんでも最近、スイスのチューリッヒ大学の学生たちのチームが3Dプリントされた外装を持つ、まるで生きているかのようなロボット猫を開発したらしい。
新時代の猫型ロボット「ディアナ」
開発の中心的役割を担っているのはアンドリーナ・グリムというチューリッヒ大学工学部の学生だ。その他、応用科学部、芸術部など、領域横断的に有志が集まり、このプロジェクトは進められているという。
彼女たちが作り出そうとしているロボット猫の名前はディアナ。ギリシャ神話に登場する月の女神の名前だ。
画像提供/Andrina Grimm / Sintratec
目指したのは、アニマトロニクスとモバイル四足動物との間のギャップを埋める、ダイナミックなアニマトロニクスロボットを構築すること。アニマトロニクスとはコンピューター制御されたロボットを人工の皮膚で覆い、リアルで滑らかな動きのある生物を演出する技術をいう。要はより生き生きとした「ロボットらしからぬ」ロボットの構築を行うことが目指されたというわけだ。
そのために彼女たちが考えたのは、コンピューターアニメーションの動きを現実世界の歩行ロボットで行う方法だった。だが、プロジェクト参加者は皆学生、時間は限られている。開発期間はたった9ヶ月。その短期間で独自のメカニズムを備えたロボット全体をゼロから構築した。
動画を見てみると分かるが、なるほど、1999年のaiboと比較して、格段に進化していることがうかがえる。周囲の様子を見回しているような眼球の運動、各関節の滑らかな動き、動作パターンの多様さ、さすがに「本物の猫のようだ」とはまだ表現しえないものの、ディアナの存在にはaiboからは得られなかった「生きている」という感覚を得ることができる。
ディアナを本物の猫のような様々な感情を表現できるキャラクターとするために、グリムたちは特にエクステリアデザイン、つまり外装パーツにかなりこだわったという。その際に欠かせなかったのが3Dプリンターだった。
画像提供/Andrina Grimm / Sintratec
チームは複数の方式の3Dプリント技術を駆使し、ディアナの外装パーツを出力した。中でもレーザー焼結方式は、衝撃に耐えるのに十分な頑丈さと曲面をサポートするのに十分な柔軟性を備えた部品を手に入れる上で最も適していたという。グリムたちによれば、3Dプリンターの活用は「ロボット工学の分野で大きな可能性を秘めている」とのことだ。
このプロジェクトは現在も継続中らしい。あるいは、いずれaiboのように一般販売される日も来るかもしれない。SF小説では定番である「人間とロボットの交感」というテーマは、もうかなり身近にまで迫った話なのだ。いや、そもそも、私たちがぬいぐるみにさえ愛着を感じ、思慕を抱くことができる存在だということを思い返せば、ロボット猫をリアルな猫と同等に愛玩することなど、わけないことだとも言えるだろう。
画像提供/Andrina Grimm / Sintratec
人間とアンドロイドの恋を描いた19世紀の小説『未来のイヴ』の著者であるヴィリエ・ド・リラダンは同作に次のような一節を残している。
「われわれの神々もわれわれの希望も、もはやただ科学的なものでしかないとすれば、われわれの愛もまた科学的であっていけないいわれがありましょうか」
ならば、3Dプリンターが愛を出力してはいけないいわれも、またないというものだ。