集団行動する3Dプリント昆虫ロボットが人間を狩猟するディストピア
3Dプリント技術の兵器利用をめぐって
3Dプリント技術の発展は人類にさまざまな恩恵をすでにもたらしている。地産地消の促進、環境破壊を引き起こす大量生産の抑止、国家間搾取を引き起こすサプライチェーンの見直し、医療技術の発展、食糧不足のソリューション、民間のものつくり意欲の向上、などなど、そのポジティブな側面を挙げていけば枚挙にいとまがない。
しかし一方で、いくつか危険視されている点もある。たとえば3Dプリント銃の普及は、手放しには肯定することができない問題を引き起こしている。そして、もう一つ、今最もされているのは3Dプリント技術の兵器としての利用だ。
たとえば、最近、ノートルダム大学の電気工学教授であるYasemin Ozkan Aydin氏が発表した論文では、3Dプリントされた多脚ロボットの群れが個々のロボットの地上の移動性を高める可能性が指摘された。
画像:ノートルダム大学
ここで想定されたロボットは昆虫型であり、その脚の柔軟性により、障害物があってもセンサーなしに避けることができるという。さらに道に隙間があっても自らの体で橋をかけて渡ることができ、また、それぞれのロボットが接続することでより移動性を高めることもできるそうだ。
果たして、そのような障害物や亀裂をロボットが軽快に超えていくことが求められる現場とはどのような現場だろう。そう、建物が立ち並ぶ市街地、そして戦場だ。もちろん、現状でこのロボットが兵器として開発されようとしているわけではない。しかし、このロボットがもし武装したら? それは陸上戦における戦車以上の最強の存在となりうる可能性があるのだ。
実際、新しいテクノロジーが兵器として用いられることはとても多い。今では一般人の映像撮影でも多用されるドローンなどもそうだ。すでにドローン爆撃は現代的な戦争において欠かすことができない作戦攻撃となっている。つまり、これは決して杞憂とは言えないのだ。
集団行動研究を援用した自律型ロボット兵器システムが今後、どのように国家間の戦争を変えることになるのか。そして、その中で3Dプリント技術がどのように利用されていくことになるのか。
グレゴワール・シャマユー著『人間狩り』によれば、権力とは群れを安全に管理する司牧権力と、群れの中から異物を探し出し、排除、抹消する狩猟権力とがあり、それらはコインの裏表として機能しているという。巨大な3Dプリント昆虫ロボットは、もしかしたら近未来の狩猟権力の担い手となる可能性もある。
グレゴワール・シャマユー著『人間狩り』
もちろん、それは全て我々人類がこのテクノロジーをどう使うかにかかっている。街中に警察昆虫が蠢くディストピアを妄想しつつ、テクノロジーのよりクリエイティブな利用を心がけ、異なる未来の可能性を切り拓いていきたいところだ。