
生きた体の中で3Dプリント!? カリフォルニア工科大学が“音で作る”新技術を開発
「3Dプリント」といえば、ものづくりや試作などのイメージが強いかもしれません。でも今、その技術が生きた体の中でも使えるようになるかもしれないのです。
カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究チームが開発したのは、DISP(ディスプ)=“深部組織イン・ビボ音響プリンティング”という、超音波を使った全く新しい3Dプリント技術。なんとマウスの体内で、がん治療用のポリマーを直接プリントすることにも成功しています。
超音波で「体の中の特定ポイントだけ」プリント!
これまでの体内プリント技術は、赤外線を使っていたのですが、どうしても深い場所までは届きにくいという弱点がありました。DISPでは、その代わりに「超音波」を使います。
具体的には、以下のような流れでプリントが行われます:
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バイオインクを体内に注射(特殊な成分入り)
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超音波を当てると、狙った場所の温度が5℃ほど上昇
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温度変化に反応してリポソーム(ナノサイズの袋)が開き、中の架橋剤を放出
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それがトリガーとなって、その場でポリマーが形成される
しかも、バクテリア由来の“ガスベシクル”を使うことで、プリント位置が外からもしっかり可視化できるとのこと。「見ながら正確にプリントできる」というわけです。

どんなことに使えるの?
DISP技術は、以下のようなさまざまな応用が期待されています。
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ドラッグデリバリー用のカプセル(薬を狙った場所だけに放出)
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体内の傷をふさぐ接着ポリマー
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生体信号をモニターできるハイドロゲル
マウスの実験では、膀胱にある腫瘍近くに抗がん剤「ドキソルビシン」を含んだポリマーを直接プリント。結果は、ただ薬を注射しただけの場合よりも、腫瘍細胞の死滅が大幅に増加したそうです。
つまり、「薬をピンポイントで届けて、その場で固める」という、医療の理想がいよいよ現実になりつつあるんです。
将来的には心臓の中でもプリント可能に?
研究チームは今後、より大きな動物モデルでの試験を予定しており、人間への応用も視野に入れているとのこと。
しかも、今後はAI(人工知能)との連携も構想中。「動く臓器、たとえば心臓の中でも、AIのサポートで自動的に精密プリントできるようにしたい」と、チームのリーダーであるガオ教授は語っています。
この画期的な研究成果は、科学誌『Science』に掲載され、アメリカ国立衛生研究所(NIH)やがん協会などからの支援を受けて行われました。
「体の中で3Dプリント」は、もうSFじゃない。
これまで想像の中にしかなかったような「生きている体の中で物を作る」技術が、現実になりつつあります。
がん治療、再生医療、臓器修復――。未来の医療が、DISPのような技術によって大きく変わっていくのかもしれません。