
AI × 3Dプリントで靴を「誰でも作れる」時代へ──Syntilayが切り拓く次世代フットウェアの可能性
ファッション業界の中でも、近年とくに注目されているのが「フットウェア(靴)」における3Dプリンティング技術の進化です。これまでは大量生産が前提だった靴づくりに、カスタマイズやオンデマンド生産、さらにはAIを活用した新しい創造の形が加わりつつあります。
そんな中、フロリダを拠点に活動するスタートアップ「Syntilay(シンティレイ)」が登場しました。同社は、これまで靴づくりにアクセスできなかったクリエイターたちに、その可能性を開放しようとしています。AIと3Dプリント技術を融合し、誰もがオリジナルの靴をデザイン・制作・販売できる新しいプラットフォームを構築しているのです。
靴づくりは「一部の人のもの」ではなくなる
これまで、靴を自分で作るというのは、資金や工場、専門知識がなければ不可能に近いものでした。YouTuberやインフルエンサーであっても、大手ブランドと契約を結ばなければ、自分のシューズラインを出すことは難しかったのです。
Syntilayは、そうした制約を取り払いました。同社のプラットフォームでは、デザイナーやブランドがわずか3カ月で靴を企画・制作・販売できる仕組みを提供しています。従来のフットウェア業界では、新しい靴を市場に出すのに約18カ月かかると言われているため、これはまさに“異次元のスピード”です。
AIがデザインを、3Dプリンターが現実化する
Syntilayの最大の武器は、AIによるデザイン支援と、Zellerfeld社との提携による3Dプリント製造です。
まず、靴のデザインは手描きから始まるのではなく、AIによるコンセプト生成からスタートします。Vizcomなどのツールを用いて、AIが形状や構造を提案し、それを人間のデザイナーがブラッシュアップしていくというハイブリッドな体制がとられています。
また、シューズの模様やテクスチャー、内部構造にもジェネレーティブAIが活用されており、約70%の工程はAI主導で進められています。これにより、従来の「大量生産・画一的なデザイン」では生まれなかった、まったく新しいシューズのスタイルが次々と登場しています。
そのデータを元に、TPU素材を使ったフル3Dプリントが行われます。Zellerfeldは、あのNikeの初のフル3Dプリントスニーカーも手がけた企業であり、プリント精度と耐久性に定評があります。

「型」がないから、すべてが自由に
従来の靴づくりでは、サイズごとに異なる金型(6号、7号、8号…)を作る必要がありました。これは膨大なコストと時間を要し、大量生産でなければ割に合わない構造でした。
しかしSyntilayのシステムでは、その「型」が不要。3Dプリントによって、注文が入ったサイズ・カラーだけをオンデマンドで出力できるため、在庫を持つ必要もありません。これにより、失敗や在庫ロスのリスクを極限まで削減することが可能となっています。
内部構造も工夫されており、三角構造を持つインナーグリッドは、履き心地と出力効率を両立。これもAIと3Dプリントの融合だからこそ実現したデザインです。

「靴を作る」という行為の民主化
Syntilayが目指しているのは、靴の開発や製造に必要だった資金・知識・人脈といったハードルをなくし、「誰でも靴を作れる」未来を実現することです。販売面でも、完成した靴はSyntilayのオンラインプラットフォームを通じて世界中に販売可能で、クリエイター自身がファンに向けて自由に発信できる仕組みが整っています。
将来的には、人気モデルは従来の大量生産体制でも製造し、3Dプリントはカスタマイズやテスト、初期リリースに特化させるというハイブリッドモデルも視野に入れています。
3Dプリントの未来と、その先にあるSyntilayのビジョン
Syntilayが描く未来像は明確です。今後10年で、3Dプリントによるシューズ製造コストは、伝統的な製造方法と同等かそれ以下にまで下がると見ています。生産拠点も分散型に展開できるため、世界中どこでも、必要な地域にだけプリンターを置けばよいという新しいグローバルモデルが生まれるのです。
その中でSyntilayは、AIが設計し、3Dプリンターで実現される次世代フットウェアのリーダーとして、より多くのブランドやクリエイターとコラボレーションしていく方針です。
デジタルとフィジカルの融合が“ものづくり”を変える
AIと3Dプリントは、単なる技術トレンドではなく、物理的なプロダクトの制作プロセスそのものを変える鍵です。Ben Weiss(Syntilay CEO)も語るように、AIによって生み出されたデザインは、これまで人間の発想が届かなかった新しい形や構造をもたらします。そして、それを具現化するのが3Dプリントなのです。
「靴を作るのは、もはや一部の企業や職人の特権ではない」。そんな時代が、確実に近づいています。