3Dプリント製Hi-Fiポータブルスピーカー「SignalForm」 – Printed Pulseの挑戦
Printed Pulseというブランド名で活動するあるメイカーが、3Dプリント製のポータブルスピーカーシステム「SignalForm」を開発したことが話題になっています。
市販の完成品オーディオとは異なり、SignalFormは筐体から内部構造まですべて自作可能で、修理やカスタマイズがしやすいよう設計されており、スマートフォン連携やWi-Fiなどの付加機能に頼らず、純粋に音質と体験にフォーカスしたオープンソースのプロジェクト。3Dプリンターでオーディオ製品を作ることで、クローズドな商用オーディオシステムに代わる新たなアプローチを目指しているとのことです。
ヘッダーの写真は3Dプリントで作られたポータブルスピーカーSignalFormの完成品。本体ケースやスピーカーグリル、ノブ(つまみ)に至るまで3Dプリンタで造形されており、レトロなブームボックス風のデザインに仕上がっています。
Bluetooth対応の近代的な機能を備えつつも、Wi-Fi接続やスマートアプリはあえて搭載しておらず、物理ノブによる直感的な操作に徹していて、シンプルな構成ながら、3Dプリントならではのカスタムデザインと修理のしやすさを両立した意欲作です。
3Dプリント筐体と内部構成
SignalFormは主要部品の多くを3Dプリンタで造形した筐体を持ち、内部には市販のオーディオ用電子部品を組み合わせています。そのハードウェア構成は以下のとおり。
- 筐体素材: 弊社でもお馴染みのBambu Lab製のPETG HFフィラメントを使用してケース本体を造形。必要に応じて半透明のPETGパネルも組み込み、振動対策としてTPU製アイソレーションマウント(防振マウント)を装備しています。
- スピーカーユニット: Dayton Audio社製のDMA105-8型フルレンジドライバーを左右に各1基搭載し、補助として同社ND105型のパッシブラジエーター(受動放射板)を各側面に組み合わせています。
- アンプ: Dayton Audio社のBluetooth対応アンプボードKABD-250を内蔵し、左右チャンネルに合計50W級の出力を供給します。
- 電源: 18650型リチウムイオン充電池を5本直列に使用したカスタムバッテリーボードを搭載し、約21Vの電源電圧でアンプを駆動します。
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エンクロージャー構造: スピーカー筐体内部は左右チャンネルそれぞれ約2.8リットルの密閉型エンクロージャーになっており、中央にはアンプやバッテリーなど電子回路を収める区画が設けられています(※中央区画には冷却用の通気チャネルも配置)。
筐体の左右に配置された密閉キャビティにフルレンジドライバーとパッシブラジエーターを組み合わせることで、小型ながら低音域も確保するという設計で、中央の電子部品ベイには冷却用ダクトが設けられており、アンプボードなどから発生する熱を逃がす工夫もなされています。
材料には耐久性と強度に優れたPETG系フィラメントが使われているため、3Dプリント製でも剛性の高い筐体になっています。また、TPU製の柔軟なマウントによりスピーカーユニットの振動が筐体に直接伝わりにくくなっており、不要な共振や音質への悪影響を低減しています。

音響性能と機能
とはいえ、気になるのは実際の音響。なんでもSignalFormはHi-Fiオーディオを目指した本格的な性能と、シンプルな操作性を両立していルトのこと。発表されている主な音響スペックおよび機能は次のとおりです。
- 音響性能: 再生周波数帯域は約65 Hz~20 kHzと広く、小型ブームボックスとしては十分な低音域までカバーしています。出力音圧も最大で2メートル離れて約95dBに達し、屋内で迫力のあるサウンドを楽しめるレベルです。
- アナログ音質調整: 本体上部には3つのノブがあり、低音 (Bass)・中音 (Mid)・高音 (Treble) を独立して調整できるようになっています。デジタル信号処理(DSP)は搭載しておらず、あくまでアナログ回路と筐体設計・スピーカーユニットの特性によって自然な音質バランスを実現しています。
- 接続性: Bluetooth 5.0によるワイヤレス再生に対応し、高音質コーデックであるaptX HDもサポートします。また3.5mm AUXアナログ入力端子も備えており、スマートフォン以外の機器も接続可能です。電源端子にはUSB-Cを採用しており、付属のバッテリーはUSB-C経由で充電できます。
今回はスマートスピーカーのような高度なネットワーク機能や専用アプリはあえて省いたとのこと。「シンプルに良い音を楽しむ」ことに徹した設計になっています。物理ノブによる直感的な操作と、Bluetooth/AUXによる手軽な再生環境のみを提供することで、オーディオ本来の体験に集中できるようになっています。
オープンソース公開とコミュニティ
SignalFormは現在MakerWorldというコミュニティプラットフォーム上でプロジェクトが公開されており、コミュニティ主導のオープンな開発が進められています。
完成後には筐体データのSTLファイル、電子部品の部品表 (BOM)、詳細な組立手順書が誰でも入手できる形で公開されルトのこと。
開発者のPrinted Pulse氏は、このプロジェクトに対するコミュニティからのフィードバックも積極的に募集しており、特に、筐体内部に充填する吸音材の効果的な使い方、3Dプリント時の最適な造形設定、そしてプリント筐体特有の共振を抑制する方法などについて、他のメイカーたちからアイデアや助言を求めているとのことです。
最終的なデータ公開により、世界中の3Dプリンタ愛好家やオーディオホビイストがSignalFormを自作・改良できるようになるはず。「3Dプリント×オーディオ」の可能性を示す興味深い挑戦。自分だけの高音質スピーカーを作り上げたいものつくりファンにとって、SignalFormは大いに刺激となるプロジェクトではないでしょうか。

参照:reddit
