
スイスの山奥に突如現れた「白い塔」――住民11人の村に3Dプリントのランドマークが誕生!
人口わずか11人。
スイス・ミュレーニュスという小さな山間の村に、高さ30メートルの“真っ白な塔”が建ちました。
その名もTor Alva(トール・アルヴァ)。
見た目はまるで異世界建築、でも中身はれっきとした最先端の3Dコンクリートプリント技術でできています。
村を救う!?未来の建築がポツンとスイスの村に
この塔がつくられたのは、村の再生を目的としたプロジェクトの一環。
設計と技術開発を担ったのは、スイスの名門ETHチューリッヒ工科大学と、文化団体Origen財団の共同チームです。
「この村に文化と人の流れを取り戻したい」――
そんな想いのもと、5年限定の“文化的ランドマーク”として2025年5月にオープン。
5月23日からは毎日ガイド付きツアーが開催され、7月からは塔内でのパフォーマンス公演も予定されているとのことです。
32本の柱が支える、まるで生き物のような建築
この塔、ただのモニュメントではありません。
32本の彫刻のような白いコンクリート柱が支える4階建ての構造で、上に行くにつれて枝分かれするように細くなり、軽やかさを増すという独特のデザイン。

この有機的な形状を手がけたのは、建築家ミヒャエル・ハンスマイヤー氏とETH教授のベンヤミン・ディレンブルガー氏。
アルゴリズムを駆使して、装飾性と構造性を同時に生成する設計手法を取り入れた、まさに計算された美しさです。
「3Dプリントの柱」で荷重を支えるという革命
実はこの塔、単に「表面が3Dプリントされている」だけではありません。
なんと、柱そのものが構造体(荷重支持部材)として機能しているのです。
これができたのは、ETHのロバート・フラット教授が開発した特殊なコンクリートミックスと、“成長する補強”という新しい工法のおかげ。
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ロボット1号がコンクリートを積層
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ロボット2号が20cmごとにリング状の補強材を挿入
という、2ロボット連携による印刷+補強の同時作業が行われています。
これにより、一般的な鉄筋コンクリートに匹敵する安全性が確保され、スイス国内の建築基準もクリアしたとのこと。

製造から輸送まで、大学キャンパスで始まったチャレンジ
塔の柱の製造には5ヶ月を要し、作業はETHチューリッヒのHönggerbergキャンパス内で行われました。
完成した部材はスイス・ザヴォニンで組み立てられ、標高約1,500メートルの山間地ミュレーニュスまで運搬されたというのだから、そのスケールの大きさにも驚かされます。
科学と文化のコラボが生んだ「次の建築」
ETHの学長ジョエル・メソ氏はこのプロジェクトを「科学と産業の協働の象徴」と語り、Origen財団の創設者ジョヴァンニ・ネッツァー氏も「技術を超えて建築業界に刺激を与える存在になった」と絶賛。
スイス政府のギー・パルムラン連邦参事も、「かつてヨーロッパ各地に広まったグラウビュンデン州の菓子職人たちの文化的遺産を思い起こさせる」として、歴史×革新の融合を高く評価しています。
ただの“未来的な塔”を超えて
トール・アルヴァは、その奇抜な見た目や技術力だけでなく、
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限界集落の復活に貢献
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持続可能な観光と文化交流を創出
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建築の未来を提示するモデル
という、いくつもの価値を同時に実現している建築です。
観光資源としても、研究対象としても、そして何より“希望の象徴”として、
「トール・アルヴァ」は、これからの時代の新しい建物のあり方を問いかけているのかもしれません。