「まるで壁が生きているよう」Studio RAPの最新3Dプリント建築プロジェクトが話題
オランダ・ロッテルダムに拠点を置く建築デザイン事務所Studio RAPは、コンピュテーショナルデザイン(計算機利用設計)とロボットによる3Dプリント技術を融合させて建築空間に新たな美学をもたらすことに挑戦しています。最先端のデジタル技術を駆使しつつも人間的で穏やかで生きているような空間を創出することをデザイン理念に掲げており、そのアプローチはドバイとソウルで手掛けた2件の最新プロジェクトにも表れています。規模も場所も異なるこれらの事例は、デザインと素材を主役に据えたStudio RAPの哲学と技術力を如実に示すものです。
ドバイのプロジェクト「Blue Voyage」
ドバイの新しい超高級ホテル「Jumeirah Marsa Al Arab」では、エントランスロビーの両側にStudio RAPが手掛けた2枚の巨大なセラミック壁面が設置され、穏やかでありながら表現力豊かな空間を演出しています。このインスタレーションは「Blue Voyage(ブルー・ヴォヤージュ)」と名付けられ、近くに広がる湾岸地域の波のリズムに着想を得た有機的な曲線フォルムが特徴です。壁面はまるで水面の波が揺らめいているかのように緩やかなうねりを見せ、訪れた人々にまるで青い波の中を進む「旅」を体験させる幻想的な効果を生み出しています。
また表面には光沢のある釉薬が施されており、光の当たり方や観る角度によって表情を変えるため、時間帯や照明によって穏やかな印象にも劇的な印象にも移ろうダイナミックな表面効果が楽しめます。近づいて細部を見ると、流れるような線と層状の隆起による複雑なパターンが浮かび上がり、一日の光の変化に応じて陰影が刻々と変化するため、壁面がまるで生きているかのように感じられます。特別にデザインされたコーナータイル(隅石)によって模様が壁の縁まで途切れることなく繋がり、インスタレーション全体に彫刻的な統一感と奥行きが与えられている点も見所です。
各壁面のサイズは高さ約6メートル、長さ約9メートルにもおよび、合計で約900枚ものユニークなセラミックタイルから構成されています。これらすべてのタイルはStudio RAPのロッテルダムにある自社施設でパラメトリックデザイン(計算処理による形状生成)によって設計され、KUKA社製ロボットアームに装着した押出式クレイ(粘土)3Dプリンターによって一枚一枚が3Dプリントで成形されました。デジタル設計と高度なロボット製造を組み合わせることで、各タイルの形状精度や接合のフィット感、表面の仕上がりに至るまで全工程で完全にコントロールされており、現地でタイルを隙間なく組み上げることで波打つように連続した一体感のある壁面が実現しています。

画像:Studio RAP
Blue Voyageは現時点で世界最大級の3Dプリント陶磁器建築インスタレーションの一つであり、その完成度はStudio RAPが追求する「コンピュータデザインとクラフトマンシップ(職人技)の融合」の理念を体現するものと言えます。先進的なデジタルファブリケーションによって表現力豊かで耐久性が高く、周囲の場所性に呼応した建築要素を生み出す、本プロジェクトはStudio RAPの真骨頂ともいえるでしょう。
ソウルのプロジェクト
一方、韓国ソウルではStudio RAPが高級デザートブランドNudake(ヌデイク)のために、コンパクトながら洗練されたインテリア・インスタレーションがデザイン・製作されています。
このソウルのプロジェクトでは、初期のデザイン設計からデジタル製造、各パーツの生産、そして現地店舗での据付けに至るまですべての工程をStudio RAPのチームが自社内で一貫して手掛けています。いわばStudio RAPにとって自社の3Dプリントワークフロー全体を検証する実証実験(テストベッド)のような役割を果たし、コンピュテーショナルデザインと陶磁器における職人技の結びつきを一層強化する機会となりました。

画像:Studio RAP
Studio RAP自身、この取り組みを「小さなプロジェクトだが、巨大な飛躍」と表現しています。スケールは小さいものの、デジタル製造プロセスの改善や新たなアイデアの試行を通じて大きな前進をもたらした革新的プロジェクトであり、まさに「Small Project, Big Step Forward」(小さなプロジェクト、大きな前進)という言葉通りと言えるでしょう。
高度なデジタルファブリケーション技術と伝統的なクラフトマンシップ
これらの事例が示すように、Studio RAPは高度なデジタルファブリケーション技術と伝統的なクラフトマンシップを統合し、素材との対話を通じて独創的で人間味あふれる空間づくりを実現しています。コンピューターによる精緻な形態設計と、光や素材の特性を最大限に活かす実験的アプローチを両立させることで、最先端テクノロジーと素材・場所性との架け橋となる新たな建築表現の幕開けを示していると言えるでしょう。
